Belle実験で収集したすべてのデータを用い、B→τν崩壊の解析を行った。信号と対を成して生成されるB中間子をハドロンへの崩壊を用いてタグする手法を、ニューラルネットワークを用いて効率化することで、信号の選別効率を約2倍に向上させた。また、質量欠損分布の利用法の変更などを行う事で、信号と背景事象の分離法を改良した。結果として、単独の手法に対して世界最高精度での崩壊分岐比測定に成功した。得られた結果を、レプトンを含んだ状態への崩壊を用いたB中間子タグの結果と混合し、最終的に崩壊分岐比(0.96±0.26)×10-4を得た。
測定された崩壊分岐比は、標準模型の値と合致するものであった。一方で、標準模型を拡張した模型に対し、強い制限を得た。特に、ヒッグス二重項を二つ含む模型のうちタイプIIと呼ばれる模型に対し、真空期待値の比がO(10)の領域で、O(100) GeVより軽い荷電ヒッグス粒子の存在を95%の有意度で排除した。
B→τν崩壊の測定精度をさらに向上させるために、信号と対を成して生成されるB中間子を効率的にタグすることは必須である。B中間子の崩壊で放出されるK中間子とπ中間子の識別性能を向上させるために、新型の粒子識別装置の開発を行った。本装置における粒子識別は、石英輻射体でK中間子やπ中間子が発するチェレンコフ光を基にする。石英輻射体の試作機に対し、内部透過率や内部表面反射率などの光学的性能の評価を行い、試作機の光学的性能が要求を満たす事を確認した。また、実機に対して効率的で安定的な測定を行うための自動測定システムの構築を行った。さらに、複数の石英輻射体を光学接着剤で接着するためのステージおよび手法を構築し、試作機の接着を成功させた。本研究により、新型粒子識別装置の量産の準備が整った。
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