本研究の目的は、弦理論に存在する励起であるエキゾチックブレーンの性質およびそれがブラックホールの微視的物理に意味することを調べるということである。前年度までに我々は、ブラックホールの微視的物理には“superstratum”と呼ばれる弦理論的配位が重要となり、それがエキゾチックブレーンを含むということの証拠を集めた。そしてH26年度には、2変数の任意関数に依存する、非常に簡単なsuperstratumを超重力理論の枠内であらわに構成することに成功した。H27年度は、より一般な、3変数の任意関数に依存するsuperstratumの構成を目指した。そのためには超重力理論の非線形方程式を解く必要があるが、その前段階としてそれを線形化したものを解き、3変数関数に依存する解が実際に存在する証拠を示した。これは、超重力理論には、ブラックホールの微視的状態を表す、これまでに考えられていなかった非常に豊かなクラスの解が存在することの証拠である。この結果は、存在が予想されるさらに一般のsuperstratumを構成する足がかりとなり、ブラックホールの微視的状態への理解を深めるのに重要な役割を果たすと期待される。 また、弦理論に存在するホログラフィック対応を用いて、D1-D5-Pブラックホールと呼ばれるブラックホールの微視的構造を場の量子論を用いて調べる研究も行い、理論の真空構造の理解を深めた。この研究は、近年進展している局所化等の理論的技術と組み合わせることにより、微視的構造の理解の深化へつながると期待される。 さらに、京都大学基礎物理学研究所において国際研究会「Microstructures of Black Holes」を主催して、ブラックホールの微視的状態の専門家を国内・海外から招聘し講演・議論を行った。また、研究会に付随して市民講演会を企画・開催し、一般の方にブラックホール研究の最先端を紹介し、参加者と交流を図った。
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