研究課題/領域番号 |
24740160
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
日影 千秋 名古屋大学, 基礎理論研究センター, 助教 (00623555)
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キーワード | 宇宙論 / 宇宙の構造形成 / 宇宙の加速膨張 / 修正重力 / 銀河形成 |
研究概要 |
宇宙大構造の成長に伴う大スケールの速度場によって生じる銀河分布の赤方偏移変形は、宇宙大構造の成長率の観測的指標となり、重力理論の検証とともに、宇宙加速膨張の起源への重要な知見を与えてくれる。しかし、個々の銀河のランダム運動に伴って生じる非線形な赤方偏移変形 "Fingers-of-God (FoG)"の影響は、構造成長率の測定にとって大きな不定性となる。そこで今回、FoGによって生じる四重極以上の非等方クラスタリング成分を、銀河パワースペクトルの多重極成分(十六重極、六十四重極)を用いて定量化し、FoG効果の不定性を取り除く新しい手法を考案した。ハローモデルを用いて多重極成分へのFoG効果の影響を理論的に説明するとともに、スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)の明るく赤い銀河(LRG)サンプルに適用して、FoG効果によって生じる多重極成分を初めて検出し、従来の方法に比べて構造成長率の決定精度が大きく向上することを示した。 銀河は、ダークマターが自己重力によって集まったハロー内に形成されると考えられる。銀河を保有するハロー質量や、銀河サンプル中に含まれるサテライト銀河の割合は、銀河の形成・進化過程を探る上で重要な情報となる。銀河のランダム運動に伴って生じるFoG効果は、大きな速度分散をもつサテライト銀河によって生じるため、サテライト銀河の割合やハロー質量を知る新たな指標となる。そこで、数値シミュレーションを用いてSDSS LRGの擬似カタログを作成し、パワースペクトルの多重極成分からFoGの影響を見積もることで、構造成長率とサテライト銀河の割合を同時に決定する新しい手法を考案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
SDSSのLRGカタログを用い、重力理論を検証するうえで重要な指標となる宇宙大構造の成長率の観測的制限を行った。研究を遂行していくなかで、銀河パワースペクトルの多重極成分を用いてFinger-of-God(FoG)効果の不定性を除去する新たな手法を発見した。従来の構造成長率の測定は、銀河パワースペクトルの四重極成分を使う方法が一般的であり、FoG効果の不定性が課題であった。申請者は、四重極以上の多重極成分がFoG効果によって生じることを突き止め、FoG効果の不訂正を取り除く上で有用な情報となることを示した。さらに、銀河の進化過程を探る上で重要となるサテライト銀河割合とその運動学的情報を引き出す新たな指標となることを示した。多重極成分を用いた新たな解析手法の発見は、当初の計画以上のものであり、宇宙論、銀河進化の研究の両面で重要となることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
銀河パワースペクトルの精密な理論モデルを構築し、SDSS/BOSSの銀河パワースペクトルの測定から宇宙大構造の成長率およびニュートリノ質量の精密測定を目指す。 1. ダークマターハローのパワースペクトル: 大規模なN体シミュレーションを使い、摂動論の適用が困難な小スケールまで適用できる理論モデルを構築する 2. 銀河とダークマターハローの対応関係、銀河の速度分布に関して、これまで研究を行った重力レンズとの相互相関やパワースペクトルの多重極成分を用いた手法を用いる
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次年度の研究費の使用計画 |
研究をより円滑に遂行するために米国プリンストン大学への出張を当初予定していたが、先方との都合が合わず、次年度に繰り越さざるを得なくなった。 研究を効果的に遂行するために、プリンストン大学へ長期出張予定である。また国内外の会議で積極的に発表し、研究の成果をより広く伝え、研究の一層の発展を目指す。
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