本研究では、超ひも理論に出現する様々な要素に着目し、それらの宇宙論的寄与について調べた。 (1)超ひも理論の基本構成要素として知られるブレーンは、高次元空間に浮かぶ面のような物体であり、高次元空間では様々な次元のブレーンが交差していると考えられる。超ひも理論の低エネルギー有効重力理論では静的なブレーン解のみが知られていたが、現実的にはブレーンは自由に運動し、ブレーン同士は衝突し、そのエネルギーは宇宙膨張にも寄与するであろう。このような観点から、時間依存解への拡張が求められてきた。我々は、静的解を拡張する手法で時間依存した交差ブレーン系を表す解を導出した。特に一つのブレーンが他のブレーンに局在している系を詳細に調べた。しかし、重力場の方程式から得られる制約が強く、局在しているブレーンの重力的寄与を表す部分にしか時間依存性を導入できないことが分かった。その結果、膨張宇宙を得ることができたが、最新の観測が示唆する加速的膨張ではなかった。 (2) 高次元空間のコンパクト化を通じて出現するスカラー場や空間次元を安定化させるフラックスもまた、宇宙論において重要な役割を果たすと考えられる。まず、コンパクト化で出現するスカラー場が重力と非最小結合する宇宙モデルにおける、宇宙論的摂動論の一般的な定式化を行った。次にそれを具体的モデルに適用した結果、共形フレームごとに宇宙論的揺らぎの発展の仕方が変わり、揺らぎの起源の物理的解釈について注意を要することが分かった。また、フラックスの効果で宇宙初期に一部の空間次元が巻き上げられた宇宙モデルから得られる宇宙論的揺らぎを調べた。その結果、巻き上げられていた方向に伝搬するモードに対して増幅される傾向を示す方向依存性を持つスペクトルが得られることが分かった。
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