2018年頃を目途に日本やアメリカで重力波観測が開始する。アインシュタインによって100年前に予言された重力波の直接検出が実現されれば、強重力場において一般相対性理論が成立しているかという基礎科学の根幹に関わる問いのみならず、ガンマ線バーストの中心動力源は何であるかといった宇宙物理学最大の未解決問題に対する答えを人類が手にする可能性がある。さらに、真の核密度状態方程式の探求は強い相互作用の本質の解明につながるであろう。また、宇宙に存在する鉄より重い元素の内の約半分にあたるR過程元素の起源の解明は物質の起源は何であるかという根源的な問いに答えを与えると予想される。 観測可能な振幅を持った重力波は、強重力場かつ動的な天体現象から放出される。様々な解析的手段は破綻をきたすため、数値相対論と呼ばれる手法が唯一の方法となる。また、重力に加え、強い相互作用、弱い相互作用、電磁相互作用全てが本質的となるため、これらを無矛盾に実装した数値プログラムの開発が必要不可欠となる。さらに限られた計算機資源で課題を実行する為にはスーパーコンピューター上での最適化が必須である。本申請課題では数値相対論―磁気流体数値コードの開発及び最適化を最重要課題として遂行した。また、この数値プログラムを連星磁場中性子星合体に転用した結果、合体時の星の接触面におけるケルビン―ヘルムホルツ不安定性と合体後過渡的に誕生する超大質量中性子星内部における磁気回転不安定性が連星合体過程における磁場増幅に本質的な役割を果たす事が明確になった。 さらに、数値相対論―輻射流体コードの最適化を行うことで、連星中性子星合体の輻射流体シミュレーションを実行可能にした。重力的束縛を逃れて連星合体から放出される中性子過剰物質中で合成されるR過程元素の存在パターンは太陽組成を再現しうることを指摘した。
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