研究課題/領域番号 |
24740166
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
仲野 英司 高知大学, 教育研究部自然科学系, 助教 (70582477)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 輸送現象 / 強相関 / 繰り込み群方程式 |
研究概要 |
本研究は、相関が強い系における輸送係数を評価するための非摂動的定式化を行い、それを用いて具体的な系、例えば、ユニタリー極限のアルカリ原子多体系や高温・高密度における強い相互作用をする系に適用することを目的とする。 1)初めに輸送係数を求めるための定式化を行った。輸送係数は、流体方程式に現れる係数であり、一般に保存量に関する実時間相関関数の低エネルギー極限から得られる。例えば、エネルギー運動量テンソルの相関関数から、輸送係数の一つである粘性率が得られる。本研究の目的である強相関系における輸送係数を評価するために、主に先行研究において得られた汎関数繰り込み群による定式化を試みた。汎関数繰り込み群から得られる方程式は厳密であり、それを解くためには系に即した近似法を開発する必要がある。本研究では、より一般的な対称性の自発的破れを伴う系に適用可能な定式化を行った。 2)まず、自発的対称性の破れがない相における定式化を行った。このとき、輸送係数の満たす運動方程式が系の対称性をすべて満たすように要請すると、その対称性変換の生成子間の結合項が運動方程式に自然に現れることを示した。輸送係数に関する保存量は、それ自体が対称性変換の生成子であるから、その結合項は保存量の低エネルギーモード間の結合を示している。この結果は、70年代に川崎らによって現象論的に得られたモード結合理論を、場の理論の立場から導出したのことになる。また、近似法としては、運動方程式に内包される保存量に対する有効ポテンシャルを微分展開によって評価した。この近似は、一様系における対称性の破れに対して有効であり、系の持つ対称性とも整合する。これらの定式化は、今後強相関系に対する応用において重要な基礎を与える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、対称性の自発的破れを伴う強相関系において、郵送係数の振る舞いを調べることを最終的な目的としている。特に自発的対称性の破れ(連続相転移)の相転移点近傍は、低エネルギー揺らぎが大きく、この領域(臨界領域)での輸送係数の評価が本研究の主題の一つである。これまで、対称性の破れていない相において定式化を行ったが、対称性が破れたと仮定した場合に自然に拡張できないことが判明した。その理由として、対称性の破れに伴う南部・ゴールドストーンモードをより一般的に定式化に取り込むことの困難がある。南部・ゴールドストーンモードは、対称性の破れた相における主要な低エネルギーモードであり、運動方程式において輸送係数に関する保存量に結合する。強相関系に適用可能な運動方程式(繰り込み群方程式)に近似を施す際に、得られる結果が、低エネルギーにおいて、南部・ゴールドストーンモードの分散関係やモードの数を正確に再現する必要がある。さらに対称性の自発的破れは、擬スピンなどの内部対称性と並進対称性などの時空間対称性に関したものがあり、これらを有限温度・密度などの一般的な系において記述する方法は、まだ確立されていない。通常の南部・ゴールドストーンの定理は、相対論的に不変な系に対してのみ成り立つ。この問題の解決は、本研究においても重要である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を遂行するにあたり、一般的な自発的対称性の破れに適用可能な定式化を試みてきた。ただ、有限温度・密度系などの相対論的不変性に欠陥がある系における自発的対称性の破れに関して、南部・ゴールドストーンモードを正確に定式化及び近似法に取り込むことが課題として残っている。ただ、ごく最近、相対論的不変性の無い系における内部対称性の自発的破れに関して、より一般的に南部・ゴールドストーンモードを記述する方法が開発された。ただし、時空対称性の破れも含んだ統一的な記述法は確立していない。本研究においても、輸送係数を求めるための厳密な汎関数繰り込み群方程式に対して近似法を開発する際に、系の対称性が要請する低エネルギー定理を満足す必要がある。このとき、最近得られた南部・ゴールドストーンモードに関する理論との整合性を確かめながら研究をすすめる。本研究課題の一つである強結合の冷却原子多体系は、有限温度・密度における対称性の破れが観測されている系であり、それらに対しても適用していく。また、近年、強い相互作用をする系(クォーク・グルオンやハドロン多体系)の相図において、ある臨界点から発展する並進対称性の破れた空間非一様相の出現も予想されており、これらの系の定式化や輸送係数の評価を行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、研究遂行において必要な新たな知見が得られたと同時に、これによって研究計画にやや遅れが生じた。それに伴い、国内の研究会・学会等における発表を延期し、該当助成金が生じた。これを次年度助成金と合わせて、新たに得られた知見に関する書籍・参考書の購入や、関連セミナー等への予算に充てる。
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