研究課題/領域番号 |
24740185
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
北口 貴雄 独立行政法人理化学研究所, 玉川高エネルギー宇宙物理研究室, 特別研究員 (30620679)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / アメリカ / 宇宙X線 / 銀河団 |
研究概要 |
本研究の目的は、NASAの小型衛星計画の一つであるNuSTAR衛星に搭載した宇宙硬X線集光望遠鏡を用いて、銀河団からの硬X線を世界最高感度で撮像分光観測し、銀河団で起きている粒子加速およびプラズマ加熱を定量的に評価することである。 2012年6月にNuSTAR衛星を宇宙空間に打ち上げた後、焦点面に置いたピクセル型CdZnTe半導体硬X線検出器の軌道上での性能評価を、機上の放射線源およびX線天体を用いて行った。その結果、地上での較正試験から構築してきた硬X線検出応答関数モデルは、宇宙空間でも5%以下の系統誤差で実データと一致していることがわかった。このモデルは天体スペクトルを求めるために必須なので、誰もが信頼性の高い天体解析を行えるために公開しており、実際に全チームメンバーはこれを使って解析を進めている。 NuSTAR衛星はこれまでに2つの銀河団(弾丸銀河団およびAbell 2256)を、粒子加速現象のプローブとなる非熱的な硬X線放射を検出するために、のべ2週間ほど観測してきた。現在も解析は進行中ではあるが、その初期成果としてこれら2つの銀河団中心部では非熱的な硬X線放射は、銀河団プラズマからの熱的X線放射に埋もれていて、有意には検出しておらず、これまでより厳しい非熱的硬X線フラックスの上限値を導くことができた。この観測結果により、銀河団内の磁場強度をこれまでよりも強く制限することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、世界初の宇宙硬X線集光望遠鏡を用いて、銀河団からの硬X線を今までよりも桁違いに高い感度で撮像分光し、銀河団で起きている粒子加速およびプラズマ加熱を観測することである。打ち上げ後から硬X線望遠鏡の宇宙空間での性能評価を主導した結果、期待通りの硬X線撮像分光能力を示すことがわかった。実際にこの望遠鏡で2つの銀河団を観測したところ、光子統計がきわめて高く、良質な硬X線イメージおよびスペクトルが得られた。今のところ粒子加速を示す非熱的な硬X線を有意には検出していないが、10 keVを超える熱的な硬X線のイメージを、世界で初めて撮像することができた。これらの新たな観測事実を、銀河団衝突のシミュレーションと比べることで、銀河団がどのように熱的に進化してきたかに迫ることができると期待される。したがって、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
NuSTAR衛星を用いて、銀河団の高感度な硬X線撮像分光観測のサンプルを増やし、粒子加速を示す非熱的な硬X線を探査する。具体的には全天でも明るい非熱的な電波を放射しているかみのけ座銀河団を観測することを目指す。また軟X線に高い感度を持つ「すざく」衛星を使って、弾丸銀河団を外側まで長期に観測することを予定している。「すざく」衛星の軟X線データとNuSTAR衛星の硬X線データを組み合わして、X線で広帯域に撮像分光することで、弾丸銀河団内の熱的進化を明らかにすることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度の研究は、硬X線望遠鏡の宇宙空間での性能評価および銀河団の初期解析を中心に順調に進んだので、次年度はそれらの結果を国内外の学会で発表し、さらには論文発表することを推進する予定である。そのための旅費および学会参加料、そして論文投稿費を、昨年度の未使用金を含めて、次年度の研究費用として計上する。またNuSTAR衛星はアメリカNASAの小型衛星計画なので、解析ソフトウェアおよび較正データベースは主にアメリカで開発されている。そのためNuSTAR銀河団チームと解析内容および結果が妥当であるかどうかを議論するために、チーム内ミーティングに参加するための渡米旅費も加算する。その他に打ち上げから蓄積してきたNuSTAR天体データを信頼性高く保存するために、RAIDディスクアレイを購入する。
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