1) シアノ架橋銅モリブデン化合物に観る光可逆磁性: これまで,本物質の光スウィッチング磁性に関し,“磁化発現時のバンド構造変化と磁化減退時の誘導放出現象”,“光照射後の磁化が消失した最終定常状態と光照射前の非磁性状態の差異”などを明らかにしてきた。本年度は,光誘起状態の詳細を調べた。 光学伝導度スペクトルに関して,磁化の発現と同時にDrude成分の増大が観られ,光誘起強磁性状態が金属状態でもあることが分かった。平衡状態においては,初期状態として想定した非磁化状態(非磁化状態I)と,それとは電子分布の異なる非磁化状態(非磁化状態II)が存在しているが,バンド構造などの解析から,最終定常状態は後者と酷似していることが分かった。非磁化状態IIは,平衡状態において,電子充填率や温度を変えても現実的な相互作用領域では安定化せず,ほぼ実現不可能だが,光励起状態つまり非平衡状態として実現している。以上,本研究は光誘起可逆磁性の微視的な描像を明らかにし,さらに光照射が電子ドーピングや温度励起では到達できない“隠れた(平衡状態では実現しない)電子相”を誘起し得ることを示した。 2) コロネン分子の外場応答: コロネン分子は,周状に配列する6つのベンゼン環を有しており,点群D6hで特徴づけられる。我々は格子構造の対称性を正確に反映するハミルトニアンを用い,群論的解析を通して電子状態を導出し,基底状態相図を作成した。非中性状態において電子相関と電子・格子相互作用の増大が,電気分極状態を誘起することを見出した。光学伝導度スペクトルの異方性の有無により電気分極相を識別することが可能であり,観測実験が望まれる。また磁場を印加することにより,複数種類の環電流相が誘起されることも明らかにした。そのループ・パターンは電子・格子相互作用に強く依存しており,非一様な電流ループも現れ得ることが分かった。
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