研究課題/領域番号 |
24740193
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
越野 幹人 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60361797)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 物性理論 / グラフェン / 量子ホール効果 / 国際情報交換(アメリカ) |
研究概要 |
グラフェン系に関する様々な物性を中心に以下に述べる成果を得た。結果は7編の論文として発表された。 複数層グラフェン系ではAB積層とよばれる典型的な積層形態以外にも様々な積層構造が現れることが知られていたが、その多様な電子構造の詳細はよくわかっていなかった。ここでは2層のグラフェンが任意の回転角で積層する「ランダム積層グラフェン」と呼ばれる系について、磁場中スペクトルを計算した。磁場を大きくするにつれランダウ準位構造が「Hofstadterの蝶」と呼ばれるフラクタルのスペクトルに変化することを示し、グラフェン2枚だけからなる単純な系にも関わらず極めて複雑な量子ホール効果をもたらすことを明らかにした。またABA,ABC積層が混合したグラファイト系の電子状態についても網羅的に調べ、現実に現れる積層グラフェン系の性質のかなりの部分が明らかになった。 またグラフェンナノ構造体における軌道反磁性についての研究を重点的に行い、2編の論文を発表した。ここでは代表的なナノグラフェン系であるグラフェンリボン、グラフェンフレーク(小片)における軌道帯磁率を計算した。低温においては、有限サイズによる量子閉じ込め効果に起因して、帯磁率は反磁性、常磁性の間を激しく振動する一方、高温領域では無限系の帯磁率に漸近することを明らかにした。帯磁率は他の物質と比べて極めて大きく、とくにナノグラフェンの集合体に磁場を印加することで磁場と平行に配向する効果を明らかにした。反磁性はグラフェン系の最も基本的な性質の一つであり、直接実験で観測できる物理量を理論計算した意義は大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、申請時の研究目標の内「原子薄膜の電子構造を理解する(層数、エッジ効果)」、「電気伝導を明らかにする」、「巨大反磁性の探究」の3つのテーマを重点的に研究し、それぞれに関して大きな進展があった。とくにランダム積層系やABA-ABC積層系についての電子状態に多くの知見が得られ、グラフェンの積層系に関して残されていた多くの問題が網羅された。電気伝導に関しては、ランダム積層グラフェンの量子ホール効果の研究を通して、通常の磁場中伝導とは本質的に異なる異常なホール伝導度が明らかにされた。巨大反磁性については、有限サイズのグラフェン系に対して帯磁率が明らかになったことにより、現実にあるグラフェンのサンプルに対して反磁性の強さが具体的に予測できるようになった。 今後の課題は第一に「光物性の探究」であり、特にランダム積層グラフェン系における光物性について現在研究が鋭意進められている。第二の大きな目標は「グラフェンを越えた新たな原子薄膜」への展開であり、2年目から本格的に着手することを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
今後の重点課題は「光物性の探究」と「新たな原子薄膜の探究」とし、また実験との共同研究の強化を目標とする。 光物性の探究に関しては、ランダム積層グラフェン系における光吸収効果に注目し、特に磁場中のフラクタルスペクトルに対する光学伝導度の計算を進める。特にランダム積層系ではコロンビア大学の実験グループとの共同研究が進行中であり、実験結果の理論解析を進める。またグラフェン系の新しい問題として、AB積層とBA積層が入れ替わるドメイン境界がサンプルに普遍的に存在することが最近明らかになってきた。この境界におけるは系全体の輸送現象に大きな影響を与えていることが予想され、また擬スピンを制御するデバイスとしての可能性も期待される。このドメイン境界における電子状態、電子透過の問題を新たな研究内容に盛り込む。 さらに新しい原子薄膜系として注目されつつあるMoS2(二硫化モリブデン)薄膜の研究に着手する。この系の特徴はスピン軌道相互作用が強くスピンと擬スピン(バレー)が絡み合ってバンドが分離していることである。グラフェンでは不可能であったスピンを電気的に直接制御できる可能性を秘めており、スピントロニクスへの応用の可能性も期待される。この研究では、MoS2の電子構造とともにスピンや擬スピンに依存した電気伝導の研究を行い、全体目標の一つである「原子薄膜バレートロニクス」につなげることを目目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額と合わせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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