異種原子層からなる界面、回転積層グラフェン、2層カーボンナノチューブなど、非整合な結晶構造が接する複合系における物性理論を構築し、その電子構造、磁場効果、光物性を調べた。 1.非整合原子層膜の物性理論:近年グラフェンに続く新たな2次元物質としてMoS2をはじめとする遷移金属カルコゲナイド、hBN(六方晶窒化ホウ素)、黒リンなど様々な原子層膜が実現され、またそれらを組み合わせた複合系が注目を集めている。この非整合な2次元結晶の物理に着目し、その電子状態を求める手法、及びそれがもたらす物理現象に関して研究を行った。適切な疎視化によってモアレの周期のみを取り出す有効理論を確立し、またそれを応用することでグラフェン-hBN2層系の電子状態と磁場中の量子ホール効果を調べ、モアレ構造が電子の振る舞いに決定的な影響を与えることを示した。 2.遷移金属カルゴゲナイド薄膜におけるスピン依存伝導:MoS2に代表される遷移金属カルコゲナイド(TMD)の原子薄膜ではグラフェンと異なり重原子を含むためにスピン軌道相互作用が大きいことが特徴である。TMD上の単層2層界面における電子の透過を計算し、スピンに依存して電子が逆向きに屈折することを明らかにした。さらにY字型のジャンクションに電流を流すことでスピンを分離できることを提案した。これはスピントロニクスに応用可能な性質と期待される。 3.2層カーボンナノチューブの理論:2層カーボンナノチューブは直径の異なる二つのカーボンナノチューブが同軸で重なった構造をとる。内外のチューブの原子構造は特別な場合を除いては非整合であり、そのような場合電子状態が実際にどのようになるのかわかっていなかった。2次元モアレ相互作用の理論を2層カーボンナノチューブに適用することで、層間の相互作用がそれぞれのナノチューブの性質を大きく変えてしまうことを明らかにした。
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