研究課題
ラットリングフォノンと称される低エネルギーの非調和光学フォノンに起因した、異常な熱物性(結晶において発現するガラス的熱物性など)の問題解決のために、熱電材料として開発されたI型クラスレート化合物Ba8Ga16Ge30(BGG)に対する研究成果を論文にまとめた。その内容は、BGGに対するテラヘルツ時間領域分光(terahertz time-domain spectroscopy:THz-TDS)の実験で得られたフォノンスペクトルの線幅に対し、ラットリングフォノンと音響フォノンの強相関系における不純物散乱モデルの理論計算を用いて、その線幅の大きさ、温度依存性について議論したものである。ラットリングフォノンスペクトルの低温における線幅のブロードニングの異常を、ラットリングフォノンと音響フォノンとの間に不純物を介した相互作用を考慮した理論を用いて説明している。その成果をまとめた論文が、Journal of the Physical Society of Japanに掲載された。また、低エネルギーフォノン検出を中心としたテラヘルツ帯の物性研究のため、THz-TDSの装置の改良と開発を行った。まず、現有の透過型のTHz-TDSに対し、テラヘルツ帯偏光子を導入し、偏光測定を可能とした。また、THz時間波形測定速度の向上を目的として、スペクトルデザイン社の協力により、高速測定プログラムの開発・導入を試みた。並行して、当研究室にて液体He温度(4K)から高温(800K)まで連続に測定可能とするための温度可変低温高温クライオスタットの設計・導入を試みた。また、THz―TDSの反射測定系を立ち上げのために光学設計を行い、併せて高精度測定のための蒸着機構の設計・開発を行った。
3: やや遅れている
東北大物理豊田研との共同研究により、クラスレート化合物におけるラットリングフォノンの実験と理論計算による研究成果を論文にまとめ出版することができた。筑波大のフェムト秒レーザーは2011年の震災時の光学系の破損に起因して、2012年度に数度動作不良のためレーザー強度が低減した。レーザーの修理と調整のため、実験を中止する期間が長くなった。そのため、新装置である反射測定系の構築が遅れた。だが、テラヘルツ帯偏光子を導入して偏光測定を可能とする透過光学系に改良した。また、高温測定装置の自作と性能テストを行った後、現在は4Kから800Kまで連続測定可能な温度可変低温高温クライオスタットの開発と導入を行っている。また、スペクトルデザイン社との共同開発により、高速測定プログラムの開発・導入を段階的に行っている。2013年度は測定可能温度範囲の向上と、測定速度の大幅な向上、反射光学系の構築が見込まれる。
筑波大THz-TDSの透過測定系に対して、連続測定可能な温度可変低温高温クライオスタットを導入する。その動作確認として、基礎的な誘電体試料の測定として、LiNbO3や非調和フォノン性の強いリラクサーや強誘電体を中心にTHz-TDSを行う。また、スペクトルデザイン社との共同開発により、高速測定プログラムを段階的に改良していく。現在1波形取得にかかる5分程度の時間を、2013年度末には1波形1秒程度まで高速化する改良を行っていく予定である。そのことにより、大幅な測定速度の向上、調整の簡易化が見込まれる。反射光学系を組み上げ、基礎的な物質により動作確認を行う。テラヘルツ帯にフォノンを有し、高反射率を持つ強誘電体のTHz-TDSを行う。また、高精度反射型THz-TDSに改良するために必要な蒸着システムを備えたサンプルチャンバーの開発を行い、測定精度の向上を目指す。
該当なし
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Journal of the Physical Society of Japan
巻: Vol.82 ページ: 024601 (1-7)
10.7566/JPSJ.82.024601