研究概要 |
本研究では、チタン酸化物と銅酸化物のヘテロ接合を利用した光キャリア注入によって、新規な光誘起絶縁体―金属転移、金属―超伝導転移の実現と光誘起相の電子構造の解明を目指している。24年度においては、実験に用いる4種の試料をパルスレーザー堆積法によって作成した。それぞれ、銅酸化物単膜試料(La1-xSrxCuO4 (LSCO): x< 0.01(ノンドープ試料), x=0.055, 0.08, 0.125の4種のドーピング濃度)、銅酸化物とチタン酸化物(TiO2)とのヘテロ接合試料(単膜の場合と対応した4種のドーピング濃度)、チタン酸化物単膜試料である。此等を可視・赤外領域における吸収スペクトル測定によって評価し、試料が正しく作成されていることを確認した。さらに銅酸化物単膜試料についてはテラヘルツ時間領域分光を行い、テラヘルツ領域の複素光学伝導度を評価した。ただし、x=0.08の試料は極低温において超電導を示す濃度であるが、熱伝導型のクライオスタットを用いる範囲では、テラヘルツ分光においては超電導相の確認が困難であることが判明した。この解決は今後の課題である。さらに銅酸化物単膜試料およびチタン酸化物単膜試料に対して光ポンプ・テラヘルツプローブ分光を適用した。銅酸化物においては、光励起によって瞬時に超電導相が破壊されることを確認し、その回復に数ps要することが分かった。チタン酸化物においては光キャリアによる過渡的なDrude的な応答がテラヘルツ領域において検出された。この結果を研究代表者の所属する研究室で既に行われていた光ポンプ・赤外プローブ分光の結果と比較することで、TiO2におけるDrude的な応答は、フォノン散乱の影響を強く受けていることを見出した。この結果は学会で発表し、論文を執筆中である。また構築した測定系の一部を用いた結果も論文発表した。
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