研究概要 |
本研究では、チタン酸化物と銅酸化物のヘテロ接合を利用した光キャリア注入によって、新規な光誘起絶縁体―金属転移、金属―超伝導転移の実現と光誘起相の電子構造の解明を目指した。25年度においては、24年度にパルスレーザー堆積法によって作成した4種のヘテロ接合試料に対して光キャリア注入の実験を行った。試料はLa1-xSrxCuO4 (LSCO): x< 0.01(ノンドープ試料), x=0.055, 0.08, 0.125の4種のドーピング濃度とチタン酸化物(TiO2)とのヘテロ接合試料である。試料x= 0.08のヘテロ試料においては、ヘテロ接合を利用したホールのみの注入によって、ホールドーピング濃度を上昇させ、光キャリア由来の超電導が発現することが期待された。しかしながら、光キャリア注入による金属―超伝導転移は観測されなかった。光キャリアドープで変調できる濃度Δxは0.01に満たないことがおもな原因であると考えられる。0.01程度のドーピング濃度の変調で金属―超電導転移を起こさせるためには、相図上で、ちょうど金属相と超電導相の際にあるサンプルを用意する必要があるが、これはサンプル作成上非常に困難であることが推察される。また光キャリアの注入と同時に一部の電子とホールが再結合することによって温度上昇が生じることも光キャリア注入による超電導相の発現を妨げる一つの原因であると考えられる。以上より、光キャリア注入による超電導状態の発現を目指すには、ドーピング濃度が極力制御されたヘテロ接合試料を用いて、4 Kまで冷却可能なオプティスタットを用いて実験を行う必要があることがわかった。
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