研究課題/領域番号 |
24740200
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
東海林 篤 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (40392724)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | イオン結晶 / 応用光学 / 半導体物性 |
研究概要 |
光の軌道角運動量を、双極子禁制の励起子であるCu2O結晶中のオルソ励起子を用いて検出しようという研究を行っている。研究を進めていくうち、検出されるシグナルが実験を行う度に異なった値を示すことからその原因は用いているCu2O結晶が人工のものであることに起因するのではないかと推測された。人工の結晶の場合には成長時の温度の不均等から生じる結晶内部の歪みに起因した偏光解消が内在することが懸念され、その影響が本研究で期待されるシグナルに強く混じって検出されてしまっていたと考えられる。このことを検証すべくこの試料の通常の光による偏光解消の測定を行ったところ確かに大きな結晶歪みが検出された。そこで天然の結晶を準備し同様の測定を行った。結果、光の偏光解消は起こらず理想的な結晶であることが解った。再びこの天然結晶を用いて再び軌道角運動量を持った光による偏光解消の検出実験を行ったが、残念ながら予備実験で期待されたようなシグナルを検出することは出来なかった。 研究当初予定していた軌道角運動量を持った光の偏光解消は我々の実験装置では検出出来ないと言うことが明らかとなったので、別の手法として軌道角運動量を持った光による励起実験を試みた。励起子のエネルギー位置を軌道角運動量を持った光で励起すると生成した励起子が緩和して束縛励起子として発光することから、この光強度の変化を検出することにより光の軌道角運動量が引き起こす素励起との相互作用を明らかにしようというものである。結果、軌道角運動量を持った光が確かに素励起に吸収されたというシグナルを検出することに成功した。今後、光ビームの大きさを変えることによる励起子コヒーレント長のとの関係やビームのモード形状解析をすることにより、より詳しい性質を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である軌道角運動量を持った光と物質中の素励起との相互作用を検出することに成功した。当初の計画では透過配置に於いて励起子による光の偏光解消を測定することによりこの相互作用を検出しようというものであったが、シグナルが非常に弱いせいか検出することが出来なかった。この手法は本研究の申請前の予備実験で行ってきた研究を基にしたものであり、空間モードがシングルである610nm付近の光源が必要であるという理由からフェムト秒パルスレーザー励起OPAによる波長可変レーザーを使い、その広いスペクトル領域の励起子エネルギー位置に現れる特徴的なシグナルを検出しようというものであった。しかし本研究で目的とする軌道角運動量を持った光と物質中の素励起との相互作用の検出は、この手法よりも励起子エネルギー位置をピンポイントで励起しどれだけ吸収されたかを低エネルギー側に存在する束縛励起子の発光強度で検出することができれば、こちらの方が遥にS/N良く検出されると期待される。そこで結晶内に歪みを持たない天然結晶を導入し、軌道角運動量を持った光の励起実験を行ったところ弱いながらも明瞭なシグナルを得ることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに素励起のコヒーレント長とビーム径との関係や、軌道角運動量以外の空間モードとの相互作用を明らかにすることで、当初の計画より進んださらに詳しい相互作用を明らかにしていく計画である。 ビームをビームエキスパンダで予め大きくしておき、短焦点レンズで絞ることでより小さな領域へビームを絞ることが出来る。この大きさが素励起のコヒーレント長と同程度になるとシグナルが飛躍的に増大すると期待されることから、この実験を通して本研究の相互作用が励起子が電子とホールから出来ているという内部構造を反映したものではなく、励起子の四重極分極という対外的な状態と相互作用を行うということを明らかにしていく計画である。 また、本研究では光の軌道角運動量を主軸に研究を進めているが、軌道角運動量はCu2O結晶のOhの結晶場下では常によい量子状態とは限らない。即ち、L=0はΓ1+でL=1はΓ4+となって分裂はないが、L=2は結晶場によってΓ3+ +Γ5+と二つに分裂する。つまり今回実験で用いたようなL=1の軌道角運動量を持った光との相互作用は解析できるものの、より高次の軌道角運動量を持った光との相互作用は意味を持たないことになる。そこでエルミートビームのような他の空間モードを用いた実験を行うことでことでより詳しい相互作用を明らかにしていく計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当無し
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