研究概要 |
光には空間モードの一種である軌道角運動量の自由度があるということが近年知られるようになり、光トラップや微細加工、顕微鏡などへの応用研究が盛んに行われている。しかし光の軌道角運動量が物質中の素励起に与える影響に関する研究はこれまで行われてこなかった。一方、亜酸化銅の1s励起子であるオルソ励起子は光と選択則が異なるパリティ禁制直接遷移の励起子として知られており、従来このオルソ励起子を励起するため電気四重極遷移や2光子励起過程などが行われてきた。本研究ではこのオルソ励起子の選択則禁制という性質に着目し、従来ガウスビーム(スカラー)として扱われてきた光の空間モードに軌道角運動量(ベクトル)を担わせることでオルソ励起子を一光子で励起させ、物質中の素励起が光の軌道角運動量から受ける影響の研究を進めてきた。 亜酸化銅のオルソ励起子のエネルギー位置を右回り円偏光且つ右回りラゲールガウスビーム(PolR+LGR)で励起したときの発光スペクトルには主に電気四重極遷移によって励起された準位を経由したものが含まれているが、光の空間モードに影響されて励起された成分も僅かに含まれていると考えられる。そこで右・左回り円偏光(PolR, PolL)及び右・左回りラゲールガウスビーム(LGR, LGL)を適宜組み合わせた四種類で励起を行った場合の発光スペクトルから、その差分(PolR+LGR)+(PolL+LGL)-(PolR+LGL)-(PolL+LGR)をとったものの観察を行った。この差分により四重極遷移によって励起された成分は互いに打ち消し合い、空間モードに影響されて励起された成分のみが残ることとなる。実験から発光の差分スペクトルが常に正である大きいという結果が得られ、その形状は通常の発光スペクトルと一致した。この実験より光の空間モードによるオルソ励起子の励起が可能であることが実証された。
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