極短光パルスレーザーで物質を励起すると、様々な物性現象が誘起される。現象の支配要因を完全に理解するには、光と物質の相互作用の素過程を明らかにすることが不可欠である。本研究では、極短光パルス励起に固有な構造変化現象に着目した。フェムト秒光パル ス励起によりグラファイトで発生する第三の炭素凝縮相(ダイヤファイト)を対象として、構造相転移の初期過程を走査型トンネル顕微鏡(STM)によって微視的観点から解明した。グラファイト光誘起構造相転移では、初期過程として隣接グラファイト層の炭素原子間に単一のσ結合が形成される。平成25年度は、この相転移の核形成過程に着目し、その発生効率がフェムト秒光パルスの時間幅に如何なる影響を受けるのかを明らかにした。各時間幅の光パルスでグラファイトを励起して、パルス時間幅と核形成効率の関係を、STMを用いて定量的に評価した。以下に今年度に明らかにした知見をまとめる。 (1)核形成は、フェムト秒レーザーでのみ誘起される(ピコ秒、ナノ秒レーザーパルスでは形成されない) (2)核形成の効率は、パルス時間幅が短くなると共に非線形に増大する フェムト秒レーザー励起により、結晶では複数の固有状態が発生し、それらは運動量空間で波束を形成する。従って、その重ね合わせの度合いに応じて実空間でも有限の幅を持つ波束(電子波束)が形成される。電子波束は、パルス時間幅が短くなると共に、実空間での局在性を強める。(2)で得られた効率の変化は、このような電子波束の広がりの変化と完全に対応している。以上の成果から、構造相転移の核形成過程には、超短光パルス励起に固有な電子波束の形成が本質的役割を果たすと理解できる。これらの成果は、現在論文執筆中である。
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