液体Heに大振幅の定在波音波を励起すると非定常な巨大音響吸収が観測される。これは音場によって蒸気泡が生成されたことによる音響エネルギーの吸収である。申請者は、生成された泡が音場と相互作用すると泡が非線形な膨張収縮運動を行う筈であり、その結果 非定常な吸収がおきると予想していた。この説を定量的に証明するため、リアルタイムに音場の絶対値を測定できる装置、すなわち光ハイドロフォンが必要であった。しかし、既存の装置は低感度で室温でしか動作しないという問題があった。 そもそも光ハイドロフォンとは光ファイバとそれに接する媒質界面における屈折率の違いを反射率として観測する装置である。第1年度はまず低温とサーマルサイクルにも耐える光ファイバを選定し、室温のファイバと空気の屈折率の差に起因する反射光の測定から、光学系の構築・最適化を行った。その結果、今後の発展につながる重要な知見を得た:レーザ光源の反射光を利用するため、必然的に光学系にキャビティーが形成される。光ファイバが揺れるとキャビティ長が振動するため出力も変動する。即ち、キャビティーを極力作らないか、出来ても揺れないように実装する事が重要である(中でもアイソレータの導入が最も効果が高かった)。第2年度は光ハイドロフォンの安定化に加え、簡易冷凍気を新たに製作し、蒸気相・通常液相・超流動相を含む1.5~5.2Kの液体ヘリウム中で反射率を行い、換算された密度と公称値が全温度領域で一致することを世界で始めて示した。なお、密度の換算には、気液臨界現象を用いた。蒸気相の密度は不明であったが、今回、ビリアル方程式と蒸気圧を用いて計算した値が、実験値をよく再現することを発見した。密度換算には成功したが、圧力換算のためには現状ではノイズが大きすぎるためにできなかった。この原因は、半導体レーザー及びAPD検出器の本質的な問題に起因することが分かった。
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