研究課題/領域番号 |
24740209
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
原 茂生 中央大学, 理工学部, 助教 (60520012)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 結晶成長 / 水熱合成法 |
研究概要 |
初年度(平成24年度)の研究目的として、カゴメ格子を持つ新奇遷移金属酸化物KV3Ge2O9の単結晶試料の育成と、ダイヤモンド鎖を持つリンドグレン鉱(モリブデン銅鉱)Cu3(MoO4)2(OH)2の単結晶合成及び育成を掲げた。 カゴメ格子を持つKV3Ge2O9では、これまでの代表者の研究に於いて、その相が水熱合成法により得られる事を発見し、単結晶の粗大化を目的としていた。初年度に於いて、磁化測定等に用いる事の出来るサイズ(1mm3弱)の単結晶を育成することに成功した。また、その単結晶試料を用いて磁化測定を行い、その結果をまとめ公表した。[J. Phys. Soc. Jpn., 81 (2012) 073707.] スピン量子数S=1を持つ実在する磁気フラストレーション系カゴメ格子物質は2-3点しか存在せず、その基底状態が、如何様な磁気状態を示すのか未だ結論に達していない。本研究による新規参照物質の発見は該当研究分野の発展を促進する物として、その意義・重要性は大きいと考えられる。 ダイヤモンド鎖を持つCu3(MoO4)2(OH)2の単結晶合成及び育成では、先行研究に於いて多結晶試料を用いた物性測定結果のみが知られており、磁気異方性等の詳細な測定は行われていなかった。本研究に於いて、水熱合成法で単結晶試料を合成及び育成する事が可能である事を発見し、磁化測定用の結晶育成を行った。また、磁化測定を行い、その結果をまとめ公表した。[日本物理学会春季大会(広島大学), 26aPS-74 (2013).] 本研究結果は、ダイヤモンド鎖に対する理論的研究の予測を支持するものであるが、多結晶試料を用いた結果とは磁気異方性等が異なる事、磁場中に於いて新奇な磁気相が出現する事を発見した。これらの結果は単結晶試料を用いる事でしか得られない情報であり。その基底状態の解明に重要な役割を果たすものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の進捗状況において、ほぼ予定通りの成果を出せたものと信ずる。カゴメ格子を持つ新奇遷移金属酸化物KV3Ge2O9の単結晶試料の育成と、ダイヤモンド鎖を持つリンドグレン鉱(モリブデン銅鉱)Cu3(MoO4)2(OH)2の単結晶合成及び育成を、平成24年度の研究目的として掲げた。 カゴメ格子を持つ磁気フラストレーション系新奇物質KV3Ge2O9の磁気特性については、論文にまとめ公表までを行った。本物質KV3Ge2O9は巨視的な磁性測定を終え、現在は多研究機関と共同研究を提携し、ESR、NMR、ラマン分光等の測定を行う予定である。現段階において本申請課題としてのフェーズは終了し、新たな申請課題として取り上げるフェーズであると考える。よって代表者の申請課題中、本物質についての目的は完遂したと考えられる。 また、ダイヤモンド鎖を持つ量子スピン系天然鉱石Cu3(MoO4)2(OH)2の人工的な単結晶合成及び育成に成功し、磁気測定を行いその結果を日本物理学会で報告した。それらの結果を公表する為、現在、論文を執筆中である。また、この磁性体の示す特異な磁気秩序状態は今後より詳細な実験が必要とされており、現在、共同件研究を提携する為の予備実験を行っている。よって、本課題については共同研究の提携と論文発表を残しており、未完と判断する。 また、これらの課題進行中に副次的に発見した、類似構造を持つ酸化物磁性体が存在し、これらの物質については現在研究が進んでいない。これらの新奇物質は来年度または、他申請課題として研究を行う事を予定しており、継続的研究が必要であると考えられる為、達成度としては完遂する余地有りと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の進捗状況において、おおむね順調に進展しているものと考えられる。この為、次年度の推進方策は、特に大幅な変更等無く、基本的に申請書に記した方針に則った研究活動を実践する予定である。 次年度も引き続き新規物質の探索を行う。ただし次年度は過去の事例からMo5+、W5+、Rh4+、Ir5+などの不安定原子価を持つ遷移金属を含む新規酸化物の合成を行う(不安定原子価Ru5+を持つCa2Ru2O7は、原料を強力な酸化剤と共に反応させることで得られる)。水熱合成では、常圧室温では難溶性の酸化物等でも、容易に溶解することが可能となる。更に、本計画では、溶解及び反応をより速やかに行うため、出発原料に遷移金属のアンモニウム化合物((NH4)6Mo7O24等)、ハロゲン化物(MoCl5等)を選定する。特に、Mo5+、W5+では典型的原子価数が4+と6+であるため、その中間価である5+は選択が難しいが、反応に不要な寄与又は阻害しない酸化(H2O2等)・還元剤(H2C2O2等)を選び、微量な調整で合成を試みる。また、Rh4+、Ir5+は3+が典型的原子価数であるため、過塩素酸等の強酸化剤を用いる。この際、Clと結び付く可能性があるが、Clを含む新規物質であれば問題視しない。 また、反応環境のpH調整のため、酸・塩基性の溶媒を使用する。このとき反応容器自体を侵さないように、貴金属管に原料と溶媒を封入し合成を行う。また、反応環境のpH調整のため、酸・塩基性の溶媒を使用する。このとき反応容器自体を侵さないように、貴金属管に原料と溶媒を封入し合成を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究計画から、予算の大部分は消耗品(合成用貴金属管)に使用する予定である。次年度は特にMo5+、W5+、Rh4+、Ir5+などの不安定原子価を持つ遷移金属を含む新規酸化物の合成を行う予定である。この課題では、酸化性試薬及び溶媒を主に使用する予定であるため、耐酸性を持つPt又はAu製反応管を使用する事が必須となる。よって、これらの貴金属管を購入する。Pt及びAuは時価で取り扱われるため、価格が相場の変動に左右されるが、ここ最近の金相場からおおよそ100万円弱を計上する予定である。この為、次年度の助成金交付予定額では研究の遂行に支障が出る恐れがあり、初年度の予算使用額を抑え、次年度の物品費にその繰越金を充てる予定である。新規物質の発見及び結晶育成条件の最適化に必要であり、これまでの研究経過から必要となる額であると判断している。また、申請書に計上した耐圧耐熱反応炉用の備品を購入する事も視野に入れている。酸化性試薬を使用した場合、組み合わせによってはAuを腐食溶解する場合もあり、合成中に炉の耐酸性を持たない部分を侵食する恐れが有る為である。 その他の旅費、謝金等については、初年度の予算執行実績を基に概ね同一の用途(学会旅費、論文出版費等)を予定している。
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