分子線エピタキシー法に新奇技術を加えた高品質CuCl薄膜作製法に関しては、試料原料の選別や各成長条件の調整等に加えて独自手法である電子線照射に対しても加速電圧や照射時間の調整を進め、反射スペクトルの測定より得られる励起子減衰定数が0.3meVを下回るまで膜質を高めることに成功した。作製した様々な膜厚の試料に対して線形・非線形光学特性の評価を行ったところ、縮退四光波混合に加えて共鳴光カー効果スペクトルや低密度励起による発光スペクトルおいても複数のピークを持つ特異な形状を示すことを確認することができ、それらの光子エネルギーは高品質微小構造における光-励起子長距離結合に起因する輻射シフトを含めた励起子固有エネルギーと一致することが明らかになった。特に光波と閉じ込め励起子の整合性が高くなる膜厚の試料に対しては、共鳴光カー効果においても縮退四光波混合スペクトルと同様に励起子超放射による100fs秒級の超高速応答実現に至った。さらに、共鳴光カー効果に関する実験結果から非線形屈折率を算出したが、酸化ガラス等一般的に使用されている物質と比べても4桁以上凌ぐ巨大な値を示すことが明らかになり、これまでトレードオフの関係にあるとされてきた共鳴非線形過程の応答速度・光学非線形性において双方を劇的に高めることに成功した。 CuCl以外の物質についても非線形光学応答に関する実験を進め、励起子がフレンケル型であり、CuClを凌ぐ光-励起子結合が期待される有機物半導体アントラセン薄膜においては、縮退四光波混合の信号を得られるようになった。また、環境への負荷が低く安価で、応用面への発展に適したZnOに関しても実験を行い、最低励起子エネルギーよりも低エネルギー側に複数の鋭いピークを持つ特異な縮退四光波混合スペクトルの観測に世界で初めて成功し、CuClと同等の100fs級超高速応答の観測にも成功した。
|