研究課題/領域番号 |
24740211
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野村 健太郎 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (00455776)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | トポロジカル絶縁体 / トポロジカル超伝導体 / 交差相関応答 |
研究概要 |
トポロジカル絶縁体およびトポロジカル超伝導体はその表面に新奇なギャップレス暦記モードが存在する事で注目を集めている。本研究ではこれらの物質で非自明な熱応答を見出すことを目指している。今年度は本研究プロジェクトの前半であり、主にトポロジカル絶縁体・超伝導体の熱応答に関する基礎理論の構築を行った。量子ホール系における電磁交差相関応答を2次元のカイラル超伝導体における熱と回転の交差相関応答の理論に拡張することに成功した。これによって熱ホール伝導率い対する新しい表式を導出する事が出来た。これは系の軌道角運動量と温度の間の非自明な関係、および熱エネルギーと回転角速度の間の関係を与える。さらに3次元系トポロジカル超伝導体への拡張も行った。この場合、温度勾配を掛けることで系の準粒子励起により軌道角運動量が生成されることが明らかにされた。同様に系を回転すると熱分極が発生する。 場の理論のアプローチを用いてトポロジカル応答関数を導出する試みを行った。これ温度勾配による応答が重力場の応答と等価であるというLuttinger理論をトポロジカル状態に適用したことになる。汎関数積分形式で分配関数を書き下し、フェルミオン積分を実行する事で有効作用を導出した。これは重力場に対するトポロジカル項であり、この結果、熱応答の起源が重力アノマリーであることを示唆する。 今年度はトポロジカル状態における電子間相互作用の研究も行った。特に強いスピン軌道相互作用と電子間相互作用の両方があることによって対称性が自発的に破れた相が発生する可能性を検証した。このような相では非自明な交差相関応答が期待できる。平均場近似の枠組みで空間反転対称性と時間反転対称性の両方が破れる相がトポロジカル絶縁体の関連物質で見いだされることを示した。今後はこの相における電磁応答および熱電応答を調べ非自明なトポロジカル現象を存在を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は基礎理論の構築およびそれを用いた熱伝導率の数値シミュレーションであった。基礎理論としては2次元における熱と力学的回転の自由度の間の交差相関応答を定式化することに成功した。3次元に関しては完全に微視的な理論はまだ完成していない。本年度はバルク-表面対応を用いて表面状態の解析から温度勾配と軌道角運動量の関係式を導出した。 超伝導体の熱伝導率の計算はまだ計算に取り掛かってはいないが概ね準備は整った。今後は2次元カイラル超伝導体および3次元トポロジカル超伝導体の熱ホール伝導率の計算を進める予定である。さらに熱伝導率のスケーリング則からトポロジカル超伝導体の乱れに対する相図を計算する。数値シュミレーションを進めることでこれまでに提案された様々なトポロジカル状態を応答関数を用いて検証する事が可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
トポロジカル超伝導体の表面における量子熱ホール効果の不純物散乱に対する安定性を調べる。実際の系としてはBi2Se3にCuの他にMnやFeなどの磁性不純物をドープした場合と対応する。磁性不純物は表面のマヨラナ型準粒子と磁気的に相互作用し、表面の準粒子スペクトルに質量ギャップを構成する。そこで3次元トポロジカル超伝導体の表面状態を記述する有効模型として、質量項を持つ2次元ディラック-マヨラナハミルトニアンを導入し、その量子熱ホール状態の安定性を調べる。具体的方法は線形応答理論と上述の計算手法を組み合わせ、ホール熱伝導率および縦熱伝導率を数値的に計算する。この手法の最大の利点は単一のディラック型線形分散を持つ模型を扱え、さらにホール熱伝導度と縦熱伝導度が同時に計算可能である点である。従来は格子模型に基づき実空間上で計算が行われてきたが、格子模型では単一のディラック分散を実現する事が不可能である事が知られている。
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次年度の研究費の使用計画 |
数値シミュレーションのために大型の計算機クラスターを購入する。 論文完成およびプレゼンテーションのためのラップトップコンピューターを購入する。 海外の共同研究者を招聘する。 研究成果を日本物理学会および米国物理学会にて発表する。
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