研究実績の概要 |
電荷密度波(CDW)の超流動性について研究を行った。当初、低次元導体TaS3、NbS3の微小リング結晶に磁場を通し誘導起電力による応答を機械振動子素子により検出する予定であった。しかしコマーシャル品の機械振動子素子の共振周波数が1MHz以下と低いため、より高い周波数を持ち、高いQ値を持つ自己検知型機械振動子を作成する必要があることがわかった。そのため、厚さ1マイクロメートル以下で固い性質を持つ擬一次元導体その物を機械共振子とみなし、その機械的振動を電流によって検知する基礎研究を行った。この研究は現在進行途中であり今後も引き続き行う。 また、TaS3リング状結晶に二端子電極を取り付け、CDW電流の時間揺らぎを測定した。その結果、CDW電流が二つの電流状態の間を数秒ごとに行き来すること、揺らぎには2つのモードがあり印加電圧によってモード間の遷移が起きること、モードの遷移には電圧ヒステリシスがあることを発見した。この複数の電流状態、揺らぎのモードは、CDWがリング結晶内に閉じ込められるために付加される境界条件に起因すると考えられる。この結果を現在論文投稿準備中である。 また、リングではなく直線のTaS3結晶のCDWダイナミクスを詳しく調べた結果、TaS3のCDW状態では2πの位相ソリトンが多数、液体状態のようにランダムな配置をとって存在している可能性を提案した。また、そのソリトンがCDWダイナミクスに与える影響を数値シミュレーションによって示した。この結果はEurophysics letters誌にて発表を行った[T.Matsuura, et al., Europhys. Lett. 109, 27005 (2015)]。この論文で提案したソリトン液体モデルは、他の電荷密度波系においてもソリトンによる流動特性があることを示唆する。
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