研究課題
若手研究(B)
励起光源系の希ガス流入ラインを改良し、HeやXe等の希ガスから放出される複数の紫外光を自在に切り替えた励起エネルギー可変測定を可能にした。また、希ガスボンベに含まれる窒素、水、一酸化炭素などの不純ガスの影響を極力抑えるため、希ガス純化に特化した超高真空槽を放電管と希ガスボンベの間に設置した。これにより、光源から試料測定槽への不純ガス濃度が低下しつつあり、今後、試料表面の急速な劣化を抑えることが可能になると考えられる。放電管と放射光を併用して鉄系高温超伝導体Ba(Fe,Ru)2As2の電子状態の励起エネルギー依存性を測定し、フェルミ面のワーピング効果が強いことを見出した。この結果は、バルク電子状態の三次元性が高いことを示しており、輸送特性などの物性を理解するうえで重要な知見が得られた。また、超高分解能測定を行うことで超伝導ギャップの直接観測に初めて成功した。超伝導ギャップは励起エネルギーによらずほぼ一定であることから、二次元性が高いことを明らかにした。観測した超伝導ギャップの波数依存性が反強磁性相互作用を仮定した超伝導機構で説明できることを見出した。鉄カルコゲナイド超伝導体の母物質であるFeTeにSeを置換した際の電子状態の変化を高分解能ARPESによって決定した。その結果、磁気秩序相から離れるにつれて、準粒子の寿命が長くなっており、Tcの上昇と相関があることを見出した。また、Se濃度の増加に伴って有効質量が増大することから、FeSe側において電子相関効果が重要になることを示唆した。鉄系高温超伝導体と同一の結晶構造を持つ、初めてのコバルト系超伝導体LaCo2B2の励起エネルギー可変ARPESを行い、バンド構造やフェルミ面の三次元性など、超伝導機構を理解するうえで基礎となる電子状態を解明した。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画を遂行する上で鍵となる、励起エネルギー可変ARPES測定機構の構築は、概ね当初の計画通り進捗している。また、当初の計画では、光源系から試料測定槽への不純ガスの流入を抑えるため、アルミニウム製の真空紫外フィルターを光源系に設置する予定であったが、希ガスを純化する機構として、イオンポンプやチタン昇華ポンプを搭載した超高真空槽の設置を考案し、実際に立ち上げを行った。現在も改良を加えている段階ではあるものの、フィルターを用いずに不純ガスの流入を抑制することが可能になってきた。これにより、フィルターの設置によっておこる光量の低下を防ぐことができ、結果として測定効率は当初の計画の5倍以上に向上することが期待される。電子状態の研究については、Ba(Fe,Ru)2As2におけるバンド構造とフェルミ面、および超伝導ギャップ対称性を励起エネルギー可変ARPES測定によって決定することに成功した。また、鉄カルコゲナイド超伝導体の母物質であるFeTeや、それをSeで置換した試料のARPES測定を行い、反強磁性体から超伝導体へと転移する際の電子状態の変化、およびそれと超伝導発現との関係について知見を得た。さらに、鉄系超伝導体と同じ結晶構造を持つ新型コバルト超伝導体LaCo2B2の電子状態を三次元的に決定し、超伝導機構の理解に必要な基盤電子状態を解明した。このように、電子状態の測定についても当初の計画通り順調に研究が進んでいる。
交付申請書に記載した事柄に沿って、超高分解能光電子分光装置の改良を進める。装置の改良と並行して、放電管や放射光を用いて、鉄系高温超伝導体とその関連物質の電子状態研究を計画通り推進する。
本年度は概ね順調に研究が進んだこともあり、年度末に至急調達しなければならない物品等がなかったため、未使用のまま残っていた24,721円は平成25年度に繰り越すことにした。繰り越し分については、超高分解能光電子分光装置の改良に必要となる消耗品等の購入に当てる予定である。
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Physical Review B
巻: 87 ページ: 094513
10.1103/PhysRevB.87.094513
巻: 86 ページ: 014503
10.1103/PhysRevB.86.014503
Physical Review Letters
巻: 109 ページ: 176403
10.1103/PhysRevLett.109.176403