研究課題
前年度に引き続き励起光源系の改良・整備を進め、He、Xe等の希ガスを用いた励起エネルギー可変測定が迅速かつ安定して行えるようになった。また、光源の真空排気系を改良することで超高真空化を実現し、試料表面の劣化速度をこれまでの約半分に抑えた。これにより実験効率の向上を実現し、同時に実効的な分解能を2倍高めた。また、新型の試料基板の設計や液体He循環機構の改良を行い、極低温で長時間安定して測定することを可能にした。改良した装置と放射光を併用して、最適ドープBa1-xKxFe2As2およびNaFe1-xCoxAsのバルク電子状態を決定し、各フェルミ面で開く超伝導ギャップを高精度で決定した。また、Tc以下でフェルミ準位近傍のバンド構造に異常を観測し、その波数依存性とエネルギースケールから、電子が反強磁性的な相互作用を強く受けていることを明らかにした。以上の結果から、反強磁性揺らぎが超伝導に重要な役割を果たしていることが示唆される。最適ドープBa1-xKxFe2Asとは異なり、超伝導ギャップ関数にノードの存在が指摘されている過剰ドープBa0.1K0.9Fe2As2の超高分解能ARPESを行い、超伝導ギャップを三次元的な波数の関数として決定した。その結果、M点近傍でギャップノードを直接観測することに成功した。最適ドープ組成とはノードの有無という大きな違いはあるものの、対称性という観点からは両者ともs±波で説明できることから、超伝導機構自体は共通している可能性を示唆した。また、ごく最近になって高温超伝導の可能性が示唆されている超薄膜のバンド構造と超伝導ギャップを決定し、ディラック錐的なバンド分散の存在やs波的な超伝導ギャップを直接観測した。
1: 当初の計画以上に進展している
光電子分光装置の改良は当初の計画通り進んでいる。電子状態の測定についても、Ba1-xKxFe2As2系における三次元バルク電子状態を決定し、超伝導対称性を明らかにした。また、超伝導ギャップのドープ量依存性や物質依存性を決定し、これまで測定した系においては反強磁性揺らぎを基礎とした超伝導機構で矛盾なく実験結果を説明できることを見出すなど、概ね当初の計画通り進捗している。これら当初の計画に加えて、ごく最近になって鉄系超伝導体の中で最も高いTcが実現している可能性が示されたFeSe超薄膜を作成し、その電子状態を決定することに成功した。その結果、ディラック錐的なバンドの存在を見出すなど進展があった。
計画書の記載内容に沿って、光電子分光装置の改良と並行して、鉄系高温超伝導体の超伝導ギャップや擬ギャップ、準粒子について系統的な研究を進める。また、新たに発見されたFeSe超薄膜の電子状態についても同時並行で研究を行う。
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に遂行したことによって発生した未使用額である。平成26年度請求額と合わせ、平成26年度の研究遂行に使用する予定である。
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Physical Review B
巻: 88 ページ: 220508(R)
10.1103/PhysRevB.88.220508
巻: 88 ページ: 155102
10.1103/PhysRevB.88.155102
巻: 88 ページ: 115145
10.1103/PhysRevB.88.115145