研究課題/領域番号 |
24740216
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菅原 克明 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助教 (70547306)
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キーワード | 表面・界面物性 / ナノ材料 / グラフェン |
研究概要 |
近年、有効質量ゼロのディラック電子を持つグラフェン (単層グラファイト)の特異な物理現象解明に向けた基礎研究やディラック電子を制御刷る事による新規デバイス開発に向けた応用研究が盛んに行われている。グラフェンは積層数に伴い物性が劇的に変化するとともに、グラフェン層間に原子等を挿入した層間化合物においても、様々な物性(磁性や超伝導)が発現する。そこで本研究は、積層数を制御したグラフェンやグラフェン層間化合物の電子状態を角度分解光電子分光によって直接決定することで、超伝導等の特異物性をディラック電子との関連性から解明することが目的である。 平成25年度は、超高真空内で電気伝導測定を行うことが可能な電気伝導測定用クライオスタットの改良と、アルカリ金属を挿入した2層グラフェン層間化合物の作成および電子状態の解明を行った。まず、電気伝導測定用クライオスタットは10K以下の低温まで測定が行えるように、熱輻射シールドの作成等を行った。さらに、電気伝導測定が行えていることを確認するため、高温超伝導体Bi2201を用いて、電気抵抗の温度変化測定を行い、超伝導転位(電気抵抗0)を確認した。また平成24年度から改良を進めてきた試料作成装置を用いて、アルカリ金属を挿入したグラフェン層間化合物の作成を試みた結果、グラファイト層間化合物C8Rbを最も薄くしたC6RbC6のの作成に成功、その電子状態を高分解能角度分解光電子分光装置によって、超伝導に密接に関わる”層間電子状態”の直接観測に成功した。この成果は、グラフェンを基礎とした高速ナノ蓄電池や超伝導薄膜デバイスへの応用に指針を与えると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の計画では、平成24年度に製作した電気抵抗の温度変化測定が行えるクライオスタットを用いて、作成したアルカリ・アルカリ土類金属挿入したグラフェン層間化合物の電気伝導測定を行う予定であった。現在まで、熱輻射シールド等を導入することで、温度を室温から8K程度まで可変することが出来るように調整した。作成した電気伝導装置を用いて、まずは転位温度が30K程度の高温超伝導体Bi2201試料を用いて、建設した電気抵抗測定装置の性能評価を行い、電気抵抗0となる超伝導転位の観測に成功した。この後、これまで作成したアルカリ・アルカリ土類金属挿入したグラフェン層間化合物の電気伝導測定を行い、超伝導転位の可能性を明らかにする。また今年度は、当初予定していたアルカリ金属K,Rb,Csの2層グラフェン層間化合物の作成およびその電子状態を光電子分光によって研究した。その結果。Rbを挿入した2層グラフェン層間化合物において、C6CaC6で観測した‘層間電子状態’の直接観測に成功し、Rbを挿入した2層グラフェン層間化合物も2次元超伝導を示す可能性を示唆した。これらの結果は当初予定していた計画を順調に進める事が出来たため、来年度は当初予定していた金属被覆グラフェンおよび重元素を挿入したグラフェンの作成および電子状態の解明を行う。
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今後の研究の推進方策 |
更なる電気伝導測定装置用クライオスタットの調整を行うとともに、当初予定していた以下の研究を行う。 ・ 2層グラフェン層間化合物の2次元超伝導の可能性の解明 ・ 金属被覆グラフェンの非従来型超伝導の可能性の解明 ・ 重元素を挿入したグラフェンにおけるスピン軌道相互作用誘起スピン偏極バンドの観測 これらの実験を円滑に行うため、まず、これまで報告がなされていない重元素を挿入したグラフェン層間化合物の作成に着手する。これまで培ってきたノウハウを十分に生かして、アニール・蒸着条件等様々な条件化で作成を超高真空装置で作成を試み、新規グラフェン層間化合物の作成を行うとともに、光電子分光装置を用いて、スピン偏極バンドの直接観測及び発現機構の解明を行う。また、金属被服グラフェンの作成を行うために、多金属蒸着源の制作を行い、作成された高品質グラフェン上に超高真空下で蒸着・加熱をことで、研究計画で予定していた試料の作成および評価を行う。また、その場で物性測定を行うための、電気伝導測定用クライオスタットの微調整を行う。これまで、温度を室温から8K程度まで可変して電気伝導測定が行えるようし、Bi2201の超伝導転位を確認した。今後、効率的に超高真空内で、グラフェン層間化合物等さまざまな薄膜試料における電気伝導測定が可能となる、電気伝導用クライオスタットの微調整を行い、グラフェン層間化合物の超伝導転位の観測を試みる。以上の作成・評価・電子状態解析を行い、グラフェン関連物質の新規物性を電子状態の立場から解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、当初計画していたアルカリ金属を挿入した2層グラフェン関連の研究が当初予定より効率的に推進した事に伴い発生したものと、これまで改良を進めてきた電気伝導測定装置をより効率的に測定が行えるクライオスタットとなるように微調整するために生じた。 平成26年度は、・ 2層グラフェン層間化合物の2次元超伝導の可能性の解明・ 金属被覆グラフェンの非従来型超伝導の可能性の解明・ 重元素を挿入したグラフェンにおけるスピン軌道相互作用誘起スピン偏極バンドの観測 の研究を推進するために、PbやBi等の材料等を購入する予定である。また、高品質グラフェンの作成のためのSiCウエハー及び、電気伝導測定装置の改良を行うための、真空部品を購入する予定である。
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