研究概要 |
スピントロニクスでは、電荷とスピンの2つの自由度をもつ『スピン流』が電気信号制御において重要な役割を果たす。その中でも電荷の流れを伴わないスピン角運動量のみの流れ、『純スピン流』に関しては、低消費エネルギー素子への応用も期待されるため、その生成・検出・制御方法が近年集中的に研究されている。本研究では超伝導を用いた『スピン流の増幅』というこれまでにあまり研究されてこなかった新しいスピン流機能の実現を目指す。今年度は、スピン流と電流の変換効率の指標となるスピンホール角をこれまでに報告されている白金や銅-イリジウム合金の2~3%よりも大きくさせることを目標に、まずスピン軌道相互作用が大きいビスマスを銅に添加してスピンホール効果の測定を行った。その結果、わずかビスマスを0.5%添加するだけで、スピンホール角が-24%まで増強されることが分かった(Y. Niimi et al., Phys. Rev. Lett. 109, 156602 (2012).)。また、スピンホール効果を見積る際に、系のスピン拡散長を正しく算出必要があるが、これに関しては、これまでの強磁性体を使用する方法とは全く異なる、弱反局在効果を用いる手法を確立し、実際に弱反局在効果を用いて得られたスピン拡散長の値と、従来通り強磁性体を用いて得られた値が、定量的に一致することを示した(Y. Niimi et al., Phys. Rev. Lett. 110, 016805 (2013).)。さらに、上記の銅-ビスマス合金のスピンホール素子に酸化アルミニウム絶縁層を挟んで超伝導ニオブにバイアス電圧を印加して、スピンホール効果をさらに増大させることができるか試みたが、バイアス電圧依存性は観測されなかった。
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