研究課題/領域番号 |
24740218
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
近藤 猛 東京大学, 物性研究所, 研究員 (40613310)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 酸化物高温超伝導 / 角度分解光電子分光 / 超伝導ギャップ / 擬ギャップ / 準粒子分散 / フェルミ面 |
研究概要 |
本研究は、角度分解光電子分光(ARPES)を主な実験手法として用いることで、銅酸化物高温超伝導体における高温超伝導の発現機構を解明することを目的として遂行されている。近年我々の研究室では、現在世界最高となるエネルギー 分解能(70μeV)を有するレーザー励起型のARPES 装置、及びフェムト秒域のパルスレーザーを用いて時間分解を実現するARPES装置を立ち上げた。世界屈指のこれらの新しいARPES 装置を高温超伝導の研究に活かすことで、その有用性を示し、物性研究の汎用なツールとして確立することも見据えている。以下、具体的な研究成果をまとめる。 我々は、極超高分解能を達成したことで観察が可能となったノード近傍の準粒子分散の詳細観察から、これまで知られていた70meVでのボソンとのカップリングとは起源の異なるモード由来のエネルギー分散の折れ曲がり構造を新たに見いだした。興味深いことに、それらのカップリングエネルギーは、超伝導転移温度(Tc)と強く相関があることが分かった。この結果はPhysical Review Letter 誌へ受理され近々掲載される予定である。 その他の成果として、2種類の微細なギャップ構造(擬ギャップと電子対ギャップ)を分離して観測することに成功し、 それらの特性及び相互関係を明らかにすることができた。また、熱非平衡状態からギャップが再形成される振る舞いを観測することで、静的な電子状態からは見えてこない電子対形成へのダイナミクスを観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
d波超伝導体である銅酸化物高温超伝導体の研究では、ギャップが最大となるアンチノード近傍でのギャップ構造とその特性に関しては多くの報告例があり、その理解も進展してきた。一方、ギャップが微細となるノード近傍の研究は、装置の分解能の制約からその理解が遅れてきた。我々のこれまでに得られた研究結果により、銅酸化物高温超伝導体の電子物性を解明する上での鍵を握る擬ギャップとそれに伴うフェルミアークの起源を見いだす大きな進展が期待される。この研究成果は、現在世界最高となるエネルギー 分解能(~70μeV)を有するレーザー励起型のARPES 装置を活用する本研究最大の特徴に基づくもので、当初の目的に沿った期待通りの研究が遂行できているものと評価できる。一方、フェムト秒域のパルスレーザーを用いた時間分解光電子分光測定に於いても、銅酸化物高温超伝導体におけるクーパー対の再形成現象を直接観測することに成功しており、なぜ高い超伝導が実現されるのか、の疑問を解決する重要な知見が得られており高く評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
銅酸化物高温超伝導体のノード近傍において、”真”のギャップ温度を用いて決定されるフェルミアークの性質を検証する。フェルミアークの温度変化に、2種類のギャップ(擬ギャップと電子対ギャップ)がTc以上で開くことに起因した特異性が見られるか?そもそもフェルミアークは存在するのか?我々の研究により、擬ギャップと密接に関係するフェルミアークの理解に貢献できるものと考えている。 以上の研究を遂行する上で、極超高分解能 ARPES、及び時間分解 ARPES の能力を最大限に活かせる自動制御測定システムを構築する。試料位置、角度、温度、時間、偏光とすべてのパラメータをプロ グラムで制御し自動化することで、フェルミ面マッピング、エネルギーギャップの温度依存性、 緩和時間の同定及びその温度依存性、光電子強度の偏光依存性などをボタン一つで実行でき、手動での操作では困難な系統的な研究が実現できる。ユーザー利用にも装置を公開するため、装置の複雑化に伴う事故を極力無くし、修理への費用と時間の浪費を軽減するためにも、装置の自動化は有意義である。
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次年度の研究費の使用計画 |
自動制御測定システムを構築する上での経費が必要である。光電子を検出するマルチチャンネルプレートが劣化していので更新する。液体Heは低温での測定を行うための必要経費である。時間分解能改善のための非線形結晶BBOまわりの経費が必要である。国内・国外での研究発表のために、旅費と論文別刷代が必要である。また、レーザーパルスの時間幅を短くして時間分解能~200 fsを達成するために、パルス幅をモニターするオートコリレーターが必要である。
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