研究課題
1年目の本年度は、「誰でも使える小型超高圧力装置」の実現を主に目指した。ただし、研究計画では東京大学物性研究所で研究を行う予定であったが、本年度より高知大学の常勤講師(PI)として着任した為、装置環境の整備を行う必要があった。具体的には、大型プレス機、ルビー蛍光装置等を導入した他、高知大学に初期導入されていた無冷媒横型7T超伝導磁石周辺のNMRシステム構築(He循環ガスライン・NMR分光器・プログラム・NMRプローブ作成等)を行なっている。結果、高知大学においても超高圧とNMR測定のシステムを立ち上げることを完了した。超高圧セル周辺装置に関しては物性研究所と同等以上、NMR装置に関してもボア径が小さい事を除けば遜色のない実験環境を整えることが出来ている。さらに、自動同調を備えたNMRプローブを開発したことにより、NMRシステムの殆ど全てを自動化することが出来た。これは、人的リソースの少ない地方大において今後の研究を進める上で重要である。高圧力装置開発においては、バルク測定にも展開可能な配線方法を開発している。実際に共同研究者から、Pr化合物系の極低温測定が必要な系における超高圧下電気伝導・交流磁化率測定の発表が、本研究の装置を用いた成果として成されている。10GPa級、0.5K以下の複合極限環境においてある程度の試料室体積が必要な場合、既存の装置では該当するものが無いため、本研究により初めて可能となったものである。装置の基本性能においては、多数の試行により形状の改良を進めた結果、9mm3と以前の5割増程度の試料室体積を実現できている。10GPa強まで安定的に光ファイバーを導入する技術を開発しより高圧域での圧力値決定方法に目処がついた他、圧力発生効率に超硬合金の材料依存性が顕著であることが判明したことから、今後の20GPa級装置の開発に重要な指針を得ることが出来ている。
1: 当初の計画以上に進展している
主目的の一つである、超高圧装置の配線法の簡単化については、全く問題なく達成出来ており、共同研究者から複数回の発表も成されている。20GPa級超高圧装置の開発に関しては、12GPa程度までは安定して印加出来ているもののそれ以上の圧力発生に関しては方針が定まっている程度の進捗状況である。ただし、本年度は高知大学において超高圧・NMRシステムを一から構築する必要が生じた為、資金面・時間面で満足に開発に専念できておらず、その為超高圧NMR実験も未だ着手出来ていない。しかしながら、計画には無かった事項ではあるが、今まで固体物性分野の強磁場NMR実験・超高圧実験の設備が全く存在しなかった高知大学において、十分競争力のあるシステムを短期間の内に構築することが完了したので、「若手研究(B)」としては十二分に「期待以上の成果」であると自己判断するに至った。
最終年度となる次年度は、超高圧装置のさらなる改良と、本装置を利用した超高圧NMR実験を行う予定である。前年度に、高知大学における研究環境の整備をほぼ完了し、10GPaまでは極めて高歩留まりで安定して発生することが可能になった為、本年度の開発は順調に推移するものと考えている。具体的には、近年富士ダイスにより開発された超硬合金の新素材を利用して20GPa級の超高圧発生を目指している。複合極限環境としては、現在作成している循環型3He冷凍機と小型化高圧セルを組み合わせて、0.5K程度までの超高圧NMR実験を可能とすることを予定している。液体ヘリウムの補給を必要としないシステムで、3He温度と10GPa級超高圧測定が可能となるので、このこと自身も非常にインパクトが高いと思われる。測定対象としては、鉄系超伝導体と同様の結晶構造を持つ物質の多段超伝導転移の圧力依存性等である。超高圧装置の開発に不可欠な、超硬合金部品の作成費用と高圧セル金属加工代金が主である。他に主要な使用品目としては、上記に挙げた循環型3He冷凍機の部品代として、真空機器・部品、金属材料費として使用する予定である。消耗品として、ガスボンベ、電子部品等に相当の費用を支出する。次年度は最終年度となるので、国際学会における発表(口頭の予定である)、国内学会、論文等で取りまとめを行う。
該当なし
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http://www.cc.kochi-u.ac.jp/~kitag/