研究課題/領域番号 |
24740221
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宇田川 将文 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80431790)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 幾何学的フラストレーション |
研究概要 |
本年度はDCG Hubbard modelの一種であるapical checkerboard格子上の強相関Hubbard modelについて、厳密対角化とモンテカルロサンプリングを用いた解析を行なった。このモデルについては、Brandtらによって厳密に基底状態波動関数の形が与えられているものの、二重占有排除の射影のために、物理量の解析が困難な形となっており、詳しい解析は行われていなかった。本研究では実空間基底を用いたモンテカルロサンプリングを行うことにより、磁気・電荷相関などの相関関数の計算を行い、基底状態の特徴付けを行うことができた。このモデルはapical siteへの飛び移り積分tを唯一のコントロールパラメータとして含む。まず、我々は様々なtについて、apicalサイトの占有数を調べた結果、tについて基底状態は連続的に振る舞い、量子相転移は生じない事を示した。全てのtについて基底状態は短距離スピン相関を持ち、その相関長はユニットセル一つ分程度と、非常に短いものである事が分かった。また、運動量0近傍のスピン構造因子の形は運動量の2乗に比例する形となっており、スピンギャップの存在が示唆される。電荷自由度も同様に、短距離な相関を示し、また電荷構造因子の振る舞いは有限の電荷ギャップの存在を示唆する。基底状態の波動関数自体は非局所的なループ構造によって解釈でき、この系はトポロジカルに非自明な性質を有している可能性がある。当該年度の研究は今まで詳しく性質が調べられていなかったDCG Hubbard modelのスピン電荷相関の振る舞いを明らかにしたという意味で意義深いものである。特に、エネルギーギャップの存在はこの系のトポロジカルな性質をエンタングルメントエントロピーを用いて解析出来る可能性を示唆し、トポロジカル秩序の探索の予備計算としての意義も大きいと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は主に二つの事を計画していた。一つは数値計算に用いるプログラムコードの開発と整備である。特に研究代表者が保持していない厳密対角化法のプログラムコードを作成する必要があり、またその厳密対角化法のコードを補助的に用いて、研究で主に使用するモンテカルロサンプリングのプログラムコードを開発する必要があった。また二つ目の事項として、作成したモンテカルロサンプリングのプログラムコードを用いて、基底状態の相関関数の計算を計画していた。具体的には磁気・電荷相関の計算を行い、厳密対角化法の結果と照らし合わせて、得られた結果の確認を行う。また、余裕があれば、系のトポロジカルな性質を調べる事を計画していた。本年度は実際、プログラムコードの開発と整備については計画以上の成果を挙げたと言える。計画通り、厳密対角化法のプログラムコードをLapackを用いた小規模サイズのものと、Lanczos法を用いた大規模なシステムサイズのものと双方作成し、研究対象であるDCG Hubbard modelに柔軟に適用出来るようにした。また、その厳密対角化法のコードを補助的に用いてモンテカルロサンプリングのプログラムコードも開発、高速化を行い、実用に資する形に仕上げた。その後、作成した厳密対角化法、モンテカルロサンプリングのプログラムコードを実際に用いてDCG Hubbard modelのひとつであるapical checkerboard格子上のHubbard modelの性質を調べた。電荷・磁気相関を具体的に計算して空間相関、エネルギーギャップの性質を調べ、相関の短距離性、エネルギーギャップの存在を明らかにした。また、基底状態波動関数に隠されたループ構造の性質を明らかにし、この系のトポロジカルな性質の一端を明らかにした。これらの成果は当初の計画以上のものであり、本年度の研究は非常に大きな進展を遂げたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、DCG Hubbard modelのトポロジカルな性質をより詳しく調べるために、モンテカルロサンプリングの方法を用いて、基底状態のRenyi entropyを計算する。Renyi entropyのシステムサイズ依存性からトポロジカルエントロピーを決定し、系のトポロジカル秩序の有無、秩序が存在する場合には量子次元等の性質を明らかにする。その後は、三次元モデルの調査に移り、apical pyrochlore格子について、同様の解析を繰り返す。すなわち、厳密対角化、モンテカルロサンプリングを使用した基底状態のスピン・電荷相関、およびエネルギーギャップの同定である。可能ならば、トポロジカル秩序の性質についても議論を行なう。その後は、斥力無限大の仮定を緩め、斥力を有限としたモデルの基底状態の相関関数の性質を調べる。厳密対角化法、変分モンテカルロ法を用いて、斥力無限大の厳密解に基づく性質がどのように変化して行くかを明らかにする。また、DCG Hubbard modelにおいて、apicalサイトへの飛び移り積分tを0に近づけて行ったときの基底状態の相関関数の性質の変化を厳密対角化法、変分モンテカルロ法を用いて、追跡して行く。tを0にすることはapical checkerboard格子をcheckerboard格子に近づける極限に対応する。pyrochlore格子についても同様に、サイト修飾した格子との関連付けを行う事が可能である。pyrochlore格子についても、対応する飛び移り積分を0に近づける操作により、DCG Hubbard modelからの基底状態の性質の変化を同様の手法を用いて追跡する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の特色の一つはフラストレート強相関電子系の基底状態及び有限温度の物性を対象とした多角的な数値計算手法の適用にある。本研究の数値計算に必要となる計算コストは膨大なものであり、かつ複数のプログラムコードを開発する環境が必要になる。プログラム開発のためには研究代表者が専用に使える計算機があると非常に効率的であるが、現在の計算資源はその用途には不足である。平成25年度の出来るだけ早い段階で専用の計算機を導入したい。また、合わせてデータ解析用のソフトウェアも導入したい。また、フラストレート強相関電子系の多様な性質については国内・国外を問わず興味が持たれ、世界各国で理論・実験を問わず現在進行形で研究が進められている。最新の情報をいち早く入手し、本研究の成果を発表するために、国内外の研究会への参加、及び論文投稿の費用が必要となる。現段階で予定している国際会議は7月にドレスデン(ドイツ)で開催される、"Spin Orbit Entanglement: Exotic States of Quantum Matter in Electronic Systems"、8月に東京で開催される"The International Conference on Strongly Correlated Electron Systems"、9月にドレスデン(ドイツ)で開催される"Topology and Nonequilibrium in Low-Dimensional Electronic Systems"などである。また、日本物理学会の年次大会、分科会、American Physical SocietyのMarch meetingなどを含め、国内外の研究会への積極的な参加を通じて情報収集/発信を行なうために研究費を使用したい。
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