研究課題/領域番号 |
24740223
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
南部 雄亮 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60579803)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | フラストレート磁性体 / 中性子散乱 / 三角格子反強磁性体 / 籠目格子反強磁性体 |
研究概要 |
本研究は幾何学的にフラストレートした磁性体について、中性子散乱によって量子効果を解明することを目的としている。初年度は以下の事柄について研究を進めた。 (1) S = 1の二次元三角格子反強磁性体NiGa2S4は低温でも長距離磁気秩序を示さず、新奇な動的挙動を示す。不純物効果から低温でスピンに依存した量子状態が示唆されており、その状態の解明が望まれる。単結晶試料150個(2.6 g)を合成した。高エネルギー非弾性中性子散乱を行い、continuum励起の存在をより詳細に明らかにした。この状態の起源の候補としてスピンネマティックが考えられる。またフォノンの温度依存性がT* = 8.5 Kにおける異常を突き止めた。また全散乱実験を行い、局所構造の乱れの有無を調べた。装置分解能の範囲において乱れは存在しないことから、continuum励起が乱れ由来では説明できない可能性が高い。今後より詳細な解析を行う。 (2) S = 2の二次元三角格子反強磁性体FeGa2S4についてmuSR測定を行った。T* = 31 K以下においても緩和率は発散せず有限に留まり、何らかの動的挙動が保持されることを明らかにした。この機構として、Z2渦による転移、あるいはスピンネマティック状態における不純物スピンの起源が考えられる。 (3) S = 1/2の籠目格子反強磁性体Rb2Cu3SnF12はsinglet対が固化した基底状態を取ることが知られている。中性子散乱を用いてその三重項励起の磁場依存性を調べた。磁場印加に伴いギャップはZeeman項で予想される減少から逸れ、新たな機構によってギャップが誘起される。この機構として、DM相互作用の面内成分及びgテンソルの非対角項が考えられる。 以上の結果について論文発表、学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画では(1)NiGa2S4の高エネルギー中性子散乱、(2)偏極中性子散乱、(3)物質合成を計画していた。(1)については実験を行い、現在解析を進めている。(3)についても試料合成環境を整え、順次試料合成を行っている最中である。(2)については偏極中性子散乱を行うべく研究用原子炉JRR-3での実験プロポーザルを提出し、受理されていたが、東日本大震災の影響により原子炉再開の見込みが立っておらず、平成24年度中に実験を行うことができなかった。これについては平成25年度に海外の実験施設にプロポーザルを提出し、実験を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、NiGa2S4におけるスピンサイズ依存性の原因の有力候補であるネマティック状態を偏極中性子散乱によって検出することを試みる。スピンネマティック状態は、スピンが時間反転対称性を破らずに回転対称性だけを破った状態である。NiGa2S4では低温で散漫散乱が観測されているが、ネマティック転移が生じスピンの回転対称性の有無を調べるため、まずはc軸方向のスピンのflipping ratioの変化を追う。また以下の事柄についても実験を進める。 (1) スピンサイズの異なる物質群について非弾性散乱を行うことで、三角格子反強磁性体の基底状態とスピンサイズ依存性を解明する。中性子非弾性散乱を行うことで、NiGa2S4で観測されたcontinuum励起の有無とそのスピンサイズ依存性を測定する。整数スピン系ではcontinuumが保持され、半整数スピン系では温度に比例する比熱の振る舞いを反映してスピングラス的な励起が観測されると予想できる。S = 1/2物質について物質合成、バルク測定、中性子散乱実験を行う。 (2) 従来型磁気秩序を誘起すべく、Cuインターカレーション系の物性測定、中性子散乱を行う。これにより、二次元磁性由来のスピン依存量子状態の発現機構との直接比較を行う。様々なCu濃度での粉末回折から磁気構造と相関距離の変化を追跡する。これにより、従来型三次元磁気秩序と、二次元磁性に起因する新しいスピンサイズ依存性の発現機構との直接比較を行うことができる。二年間に得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究に用いるいずれの化合物も単結晶育成に先だって多結晶試料合成を行う必要がある。また、試料合成の際は真空中で焼結させるため、石英管内に封じる必要がある。試料合成用原料費と石英管費を消耗品費として計上した。他の消耗品費のうち、寒剤は磁化測定、比熱測定、中性子散乱に必要不可欠である。中性子散乱試料容器は合成された単結晶の計上や数量によりその都度作成の必要があるため計上した。更に各種部品の購入、保守のために機器周辺部品費を計上する。旅費として国内での研究打ち合わせや学会発表、さらに国内中性子施設中止時のオークリッジ国立研究所等での海外中性子散乱実験に必要な額を計上した。成果発表論文は基本的に投稿費用のかからない雑誌を選ぶ予定であるが、国内外の数雑誌には投稿費用が生じるものもあるので、それらに投稿するために計上した。
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