研究概要 |
本研究は幾何学的にフラストレートした磁性体について、中性子散乱によって量子効果を解明することを目的としている。今年度は以下の事柄について研究を進めた。 (1) S = 1の二次元三角格子反強磁性体NiGa2S4は低温でも長距離磁気秩序を示さず、新奇な磁性を示す。これまでに行った三軸分光器による中性子非弾性散乱、後方散乱、スピンエコー法の実験結果を詳細に解析し、この物質の動的挙動の温度変化を解明した。8.5 Kに向けて動的挙動が抑えられていくものの、この緩和は完全には達成されず、代わりにMHz程度の揺らぎが3 K程度まで保持されることがわかった。8.5 Kの異常はスピンの担うカイラリティが引き起こすZ2渦で定性的に説明できる一方、低温側の4 Kにおいてはこれまでの不純物効果の結果とも合わせて磁気四重極子など新奇な磁性が期待される。これらの成果は論文投稿済である。 (2) S = 1/2の籠目格子反強磁性体Rb2Cu3SnF12はsinglet対が固化した基底状態を取ることが知られている。チョッパー分光器を用いた中性子散乱からその三重項励起を詳細に調べた。その結果、単位格子の拡大に伴う新たな磁気励起や、コンティナム励起の観測に成功した。この成果はK. Matan, Y. Nambu et al., Phys. Rev. B 89, 024414 (2014)に発表済である。 (3) S = 1/2の籠目格子反強磁性体Cs2Cu3SnF12はRbの場合とは異なり、基底状態として磁気秩序を持つ。中性子非弾性散乱を用いてその磁気励起を調べた結果、線形スピン波理論から予想される磁気励起エネルギーの60 %程度しかないことがわかった。これは幅広い波数領域にまたがっており、量子効果の存在を示唆している。この成果はT. Ono, K. Matan, Y. Nambu et al., J. Phys. Soc. Jpn. 83, 043701 (2014)に発表し、Editors' choiceに選ばれた。
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