研究課題/領域番号 |
24740224
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
左右田 稔 東京大学, 物性研究所, 助教 (40463905)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際研究者交流(スイス) / マルチフェロイックス / エレクトロマグノン / 電気磁気効果 |
研究概要 |
横滑り螺旋磁気構造などの特異な磁気構造をもつ相への転移と同時に、強誘電相への転移を示すマルチフェロイック物質が注目されている。これまでの研究により,多くのマルチフェロイック物質はスパイラル磁気構造などの特異な磁気構造を起源とする強誘電性を持つ事が明らかになってきたが、本研究ではスパイラル磁気構造とは異なる起源の新奇電気磁気効果・エレクトロマグノンに注目し、新たな磁性・誘電性の関係を探索した。 スパイラル磁気構造を持たないマルチフェロイック物質Ba2CoGe2O7においてテラヘルツ時間領域分光測定で観測されたE~4 meVのエレクトロマグノンの起源を解明するため、中性子非弾性散乱実験を行った。その結果、以前までの研究で観測されている低エネルギーの磁気励起(0~2 meV)に加えて、 4 meV付近に別の励起を観測した。我々は、拡張スピン波理論を適用し、4 meVの磁気励起がlongitudinalモードに対応すること、マルチフェロイックス起源の異方性ギャップが存在することを明らかにした。 一方、磁性イオンをもつリラクサー誘電体LuFeCoO4に注目した研究も行った。LuFeCoO4に対する中性子実験を行ったところ、磁気相関の発達に伴い核散漫散乱が減少していることを明らかにした。さらに、核散漫散乱から見積もられるPNRサイズ(or相関長)と磁気相関長が密接に関係している。中性子散乱実験の結果は、磁気転移温度付近においてPNR起源のナノ磁気ドメインが存在していることを示しており、磁化測定で観測されている超常磁性の起源もPNRだと考えられる。これは、従来のマルチフェロイックスとは異なる新規な磁性と誘電性の関係である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
エレクトロマグノンに注目した研究では、Ba2CoGe2O7で観測された磁気励起を拡張スピン波理論で解析したが、詳細を明確にするためにさらなる実験が必要となる。 磁性イオンをもつリラクサー誘電体における磁性と誘電性の関係について明確にすることができたが、電気磁気効果の探索はあまり進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
Ba2CoGe2O7で観測された磁気励起、マルチフェロイック起源の特異な磁気異方性を解明するため、2つの実験を予定している。似た結晶構造を持ちながらマルチフェロイック特性を示さないBa2CoSi2O7における中性子散乱実験を行い、エレクトロマグノンの起源に迫る。Ba2CoGe2O7の磁気励起を拡張スピン波で解析した結果、観測されているエレクトロマグノンは、大きな単イオン異方性Dの存在が重要であり、マルチフェロイックスとは直接関係ないと考えられる。マルチフェロイック特性は示さないBa2CoSi2O7の磁気励起を解析することで、この系のエレクトロマグノンの起源を明確にすることができる。一方で、Ba2CoGe2O7で観測されている磁気異方性ギャップはマルチフェロイックス起源であると期待される。Ba2CoGe2O7電場中偏極中性子回折実験によって磁気異方性の電場依存性を測定し、特異な異方性ギャップの起源を明確にする。 磁性イオンをもつリラクサー誘電体における電気磁気効果を明確にするため、電場中磁化や、(交流)磁化率・誘電率における緩和時間の関係性を測定する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究においては単結晶試料が必須であり、純良単結晶試料作成のための高純度試薬と白金るつぼ・板を購入する。磁性イオンをもつリラクサー誘電体に対して電場中磁化測定を行うため、同軸を通したQuantum Design社MPMSのプローブと高圧電源を用意する。電気磁気効果の測定等に用いる液体ヘリウム代も必要である。 マルチフェロイック特性を示さないBa2CoSi2O7における中性子散乱実験は、アメリカのオークリッジ国立研究所にあるHFIRで、Ba2CoGe2O7電場中偏極中性子回折実験は、スイスのPSIで実験予定であり、航空機運賃等の旅費が必要となる。中性子測定用の試料缶も準備する必要がある。
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