研究課題/領域番号 |
24740230
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
柳瀬 陽一 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (70332575)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 超伝導 / 量子渦 |
研究概要 |
スピン三重項超伝導体ではクーパー対がスピン1の内部自由度を持つ。それはdベクトルと呼ばれるベクトル型秩序変数で記述される。dベクトルの構造に対してスピン軌道相互作用が決定的な役割を果たすことはほぼ自明とされているが、その具体的な役割についてはほとんど理解されていなかった。つまり、電子系のスピン軌道相互作用がどのようにしてクーパー対のスピン軌道相互作用に化けるのか、という問題である。UPt3におけるスピン三重項超伝導の発見以来、この問題を解明する必要性が叫ばれて来たが、理論研究の進展はより簡単な電子構造を持つスピン三重項超伝導体Sr2RuO4の登場を待たねばならなかった。以前Sr2RuO4に対して我々が行った研究により、dベクトルの構造を決定する微視的メカニズムがある程度分かってきた。 今年度は、このような微視的理論に基づいてSr2RuO4の磁場中超伝導相図を決定した結果について報告した。特に、c軸磁場中ではヘリカル相、カイラルII相、非ユニタリー相といった多彩な超伝導相が現れることを示した。また、カイラルII相では半整数量子渦が現れることを発見した。半整数量子渦は非アーベル統計に従うマヨラナ準粒子を伴うことから、最近の注目を集めるトポロジカル欠陥である。スピン軌道相互作用は半整数量子渦を不安定にすると言うのがこれまでの常識であるが、カイラルII相では逆にスピン軌道相互作用が半整数量子渦を生み出すことを示した。 また、Sr2RuO4[001]界面近傍のスピン三重項超伝導状態について研究も行った。Sr2RuO4では軌道縮退によって(広い意味での)ラシュバスピン軌道相互作用が特殊な構造を持ち、それが通常とは異なるスピン三重項超伝導状態を生み出すことを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題が目指す微視的理論と現象論の融合による理論研究が、Sr2RuO4の磁場中超伝導相図の研究として結実した。その結果発見された半整数量子渦の存在と、スピン軌道相互作用がそれを安定化するメカニズムはこれまでの常識を覆すものである。 このように微視的理論と現象論の融合という新しい理論研究のスタイルを推進することが大きな発展につながることを具体的に示すことが出来たことは、本研究課題の未来を明るくするものである。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はSr2RuO4の磁場中超伝導相の研究をさらに深化させる。具体的には、マイスナー効果や強結合効果を取り入れた計算を行い、理論の精密化を目指す。そして、半整数量子渦状態の電流分布や磁場分布を計算し、今後の実験的検証を提案する。 また、Sr2RuO4と同様にカイラル超伝導が期待されているURu2Si2の超伝導状態についても研究を進める。この物質では「隠れた秩序」と超伝導が共存することから興味深い超伝導状態が実現されている。この超伝導相の正体と隠れた秩序の関係の解明を目指す。 また、スピン三重項超伝導体であるUPt3の超伝導に関する新しい実験結果が熱伝導測定により得られたことを踏まえ、この物質で観測される多重超伝導相図の謎を解明したい。 これらの興味深いテーマに対して、これまでに実績を残してきた微視的理論と現象論の融合によるアプローチを行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
24年度は本研究課題の最初の年であったが、予定していた金額よりも少ない金額を使用した。その主な理由は、Sr2RuO4の磁場中超伝導相の研究が想定していたよりも困難な課題であったことである。しかし、24年度中に研究の過程で発見した問題をクリアし、研究成果として発表することが出来た。今後はこの成果を国内外で発表する予定である。そのために、次年度は国内旅費および国外旅費に60万円程度使用する予定である。また、学術論文も複数出版する予定なので、それにかかる論文別刷りにも20万円程度を使用する。また、この研究課題を協力して進めている大学院生の高松周平氏に対して、謝金として20万円程度を支払う予定である。また、研究が進むに従い数値計算に必要な計算機もより多く必要となっていることから、計算用のワークステーションを購入する予定である。これにかかる費用は40万円程度と考えられる。
|