研究課題/領域番号 |
24740233
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高見 剛 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40402549)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 本質的不均一 / 自己組織化 |
研究概要 |
異なる性質を持つ電子の自己組織化により形成される本質的不均一状態を理解し、この状態の制御による外場応答との結合を目指した研究を推進してきた。具体的には、(a)電子物性を担う伝導面の決定, (b)本質的不均一状態の正体・起源の解明, (c)本質的不均一状態の制御の3つの課題に取り組む計画であった。 (a)電子物性を担う伝導面の決定においては、紫外光電子分光(UPS)法を予定しており、単結晶試料の清浄表面が必要である。フラックス法により合成した試料は走査型電子顕微鏡による表面微形態観測の結果、現時点ではまだ清浄とは言い難い状態であった。そのため、さらに良質な試料の育成条件の確立に力を注いでいる。 (b)本質的不均一状態の正体・起源の解明について今年度は巨視的プローブを用いて迫った。磁化に関しては、結晶構造の2次元性を反映して異方性が観測された。両相の共存に対応して、磁化率の温度依存性にも変化が観測された。 (c)本質的不均一状態の制御について今回は、磁場中で電気抵抗を測定し、両相の外場への応答の仕方を調べた。その結果、金属相と半導体相が共存する低温においては、両相ともに磁場印加中で伝導機構が変化しないことがわかった。 最近は原子の自己組織化を利用した物質(有機・無機複合材料)の創製に成功し、これについてはX線結晶構造解析により、結晶構造の同定を進めている。この本質的不均一状態の理解と制御を行うため、電子物性の測定を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本質的不均一を理解するために、磁化測定や磁場中での電子物性の測定を実施した。磁化測定では、異方性までを含め、磁場・温度を系統的に変化させた実験を展開し、半導体相と金属相が磁気的にどのように応答するかを明らかにした。 さらに、この状態が形成される電子の自己組織化に起因するスピンポーラロンクラスターを発見した。この状態では、自然界のエントロピー増大の法則(熱力学第二法則)に従い、注入したスピンが系全体に均一に分布するのではなく、スピンの自己組織化に伴いクラスターを形成した。しかも、電気測定からこれらは1次元のポーラロン伝導を示すことが判明し、スピンポーラロンクラスターの形成を発見したことを意味する。 これらの成果を国内学会での発表、国際会議における招待講演、さらには学術論文としてもまとめることができた。また、これらのナノスケールにおける物理現象に関する最近の研究成果が認められ、国際雑誌「Nanothermoelectrics」のEditorに就任した。特に最近では、原子の自己組織化を用いた本質的不均一を利用した有機・無機複合材料の合成にも成功している。これは電子の自己組織化ではなく、さらにスケールの大きな原子の自己組織化により、自発的に結晶が形成される特異な現象によるものである。
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今後の研究の推進方策 |
ミュオンスピン回転・緩和(μ+SR)法、核磁気共鳴(NMR)法、光電子分光法などのユニークな手法を含む巨視的・微視的実験プローブを用いて統一的解釈を行う。特にこれらの測定では、試料の質が重要になってくるため、良質な試料の合成に力を注ぐ。そのためには、フラックス法による熱処理パターンを詳細に検討する必要がある。μ+SR法とNMR法により、スピンダイナミクスも含めた微視的知見を得て、これらの統一的解釈に取り組む。零磁場μ+SR法により磁気秩序の有無を調べ、弱横磁場μ+SR法により特定の相の体積分率を求めることができる。また、ナイトシフトの測定により、スピンや軌道に関する情報を得る。一方、59Co核種のNMR法により、Coの局所磁性に関する情報が直接得られる。具体的には、NMR周波数スペクトルと核スピン-格子緩和率(T1)の温度依存性を測定し、各温度での軌道の情報とスピンが関係する磁気相関の発達の振る舞いを議論する。スピン転移に関してはナイトシフト、非対称パラメータ、四重極周波数の温度依存性を詳細に調べる。また、共鳴周波数の磁場依存性を測定することにより、磁気相互作用の種類を特定するとともに内部磁場の大きさと方向を決める。電子の状態密度に関する知見を紫外光電子分光法(UPS)により得る。特に、伝導を担うフェルミ準位近傍の4kBT程度の情報が必要である。光電子放出断面積の光子エネルギー依存性からSr, Co, O, Cの部分状態密度を決定し、伝導を担う元素や層を特定する。 さらに、熱電特性、電気化学特性について幅広い条件下において、外場応答との関係を精査する。特に、最近合成に成功した有機・無機複合材料については、水素吸蔵特性についても調べる。最近の遷移金属酸化物の研究成果から書籍(全10章、単著)の執筆の依頼を受け、現在執筆中であり、平成25年度での出版を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費: 1,000,000 旅費: 200,000 人件費・謝金: 0 その他: 200,000
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