研究課題/領域番号 |
24740235
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山内 邦彦 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (00602278)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / 第一原理計算 / マルチフェロイック物質 / マンガン酸化物 |
研究概要 |
平成24~25年度にわたる本研究「マンガン酸化物を中心としたマルチフェロイック物質の理論研究」の主な目的は以下の4項目である。 (1) ハーフドープマンガン酸化物La0.5Sr0.5MnO3やPr0.5Ca0.5MnO3におけるZenerポーラロンの安定性の評価 (2) ハーフドープ二層マンガン酸化物Pr(Sr0.1Ca0.9)2Mn2O7の強誘電性メカニズムの解明 (3) 完全スピン偏極強磁性相La2/3Sr1/3MnO3の電子状態とフェルミ面の計算 (4) TbMnO3、YMnO3薄膜における強誘電性と弱強磁性の評価 以上の4点で構成される本研究の意義は、第一原理電子状態計算手法を用いて、磁性および強誘電が共存する複合新機能材料「マルチフェロイック物質」の電子状態の理解を深め、マンガン酸化物周辺物質における微視的な強誘電性発現機構を解明することである。平成24年度は、上記(1)~(3)の研究を推進し、ハーフドープマンガン酸化物の磁気構造・電荷秩序の安定性、磁性および誘電性の定量的な議論、二層マンガン酸化物の強誘電性の微視的機構について理解を深め、層状結晶構造によって生じる特有の格子不安定性を明らかにした。この件に関して、イタリアの理論グループ(Dr. Silvia Picozzi)を2回訪問して議論を行い、成果を論文にまとめた。さらに、SmBaMn2O6において同様の微視的機構に起因する強誘電分極を実験に先駆けて理論予測した。また、La2/3Sr1/3MnO3の電子状態とフェルミ面を計算し、スイスの実験グループ(Dr. Mihaela Falub)と議論し、計算結果と実験結果との間によい一致を見た。以上の研究で得られた知見は、将来的な機能性物質設計(マテリアル・デザイン)に利用可能であり、今後の理論主導による新奇マルチフェロイック物質の創成に向けての基礎となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、上記研究項目(1)および(2)に関して優れた成果を上げた。「マルチフェロイック物質」としての可能性が注目されているハーフドープ系Mn酸化物のうち、疑立方晶ペロブスカイト構造をもつPr0.5Ca0.5MnO3、および、層状構造をもつPrCa2Mn2O7における密度汎関数法電子状態計算を行い、疑立方晶構造と二重層状構造における強誘電性構造の安定性を比較した。その結果、前者では強誘電性構造は安定化せず、後者において強誘電性構造が安定化することが分かった。その微視的な物理機構は、Mnイオンの電荷秩序と、二重層構造のもつMnO6八面体のチルトによる頂点酸素イオンの歪みとの相関が電気分極を生じるというものであった。この強誘電分極は、さらに、MnO2面で特異な「eg電子の異方的飛び移り」を誘発し、Mnイオンが2量化を示す事が明らかになった。また、Mn3+・Mn4+イオンの電荷を定量的に示す物理量としてボルン有効電荷を導入し、電荷秩序および軌道整列についての定量的な議論を行った。当研究結果は日本物理学会(2012年秋、横国大)などで発表し、論文は投稿中である。 それに加えて、2012年8月に実験グループからAサイト秩序型マンガン酸化物SmBaMn2O6が低温の電荷秩序相で強誘電性を示す可能性があることが報告された[D. Morikawa et al, J. Phys. Soc. Jpn. 81 (2012) 093602.]。この報告を受けて、迅速に該当物質の電子状態計算を行った結果、SmBaMn2O6が上記のPrCa2Mn2O7と同じ機構で強誘電性を示す事が明らかとなり、その上、実験では報告されていない結晶構造および電気分極の値を理論予測した。当結果は論文にまとめて投稿し、単独著者のレターとして出版した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画(4)に従い、TbMnO3、YMnO3薄膜における強誘電性と弱強磁性を理論的に評価する。マンガン酸化物がバルクの斜方晶構造(Pbnm)に結晶化していれば、A型反強磁性を課せば弱強磁性が、E型反強磁性・サイクロイドらせん磁性を課せば強誘電性が生じることは対称性から明らかであるが、実際の薄膜実験で報告されている弱強磁性と強誘電性を同時に生じるためには、さらに系の対称性を低下させる必要がある。薄膜と基板の間で起こりうるバックリングを模した構造歪みを取り入れて、スピン軌道相互作用を考慮した計算を行い、各磁気構造で強誘電性と弱強磁性の有無を調べる。特定の対称性におけるスピン秩序と電気分極との関係は、k点で指定される小群を用いたランダウ理論によって確かめられる。低対称性構造によるMnのeg軌道状態への影響を調べ、ジャロシンスキー守谷相互作用によるスピンキャンティングについて定量的に議論する。以上の研究を終えてさらに余裕があれば、A型反強磁性SmMnO3バルク結晶の弱強磁性を課題に研究を続ける。低温でのSmイオンの4f電子による磁気モーメントとMnイオンの3d電子による磁気モーメントを同時に取り扱う電子状態計算を行い、これらの磁気モーメントの相互作用について議論する。イタリアの理論グループや、国内の実験グループとの議論を行い、最近の実験の発展を取り入れて、成果を論文にまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は大部分を旅費に用いる。研究結果についての議論をするため、イタリアの理論グループ(Dr. Silvia Picozzi, CNR-SPIN, Chieti, Italy)を2回訪問する。国内外の学会に参加し、成果を報告する。
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