本研究「マンガン酸化物を中心としたマルチフェロイック物質の理論研究」は、平成24~25年度の2年間にわたって実地され、様々なマルチフェロイック物質について理論研究を行い、電子状態における微視的な強誘電性発現機構を解明し、新奇材料物質の理論設計を行った。実験グループとの共同研究においては、電子状態計算によって実際に観測された強誘電性現象の本質的な理解を得る事に成功し、また、理論先行型の研究では、イタリアの理論グループ(Dr. Silvia Picozzi)と議論を行い、実験ではまだ成されていない新物質の設計と物性評価を行った。本研究は、実地例の少ない「理論主導によるマルチフェロイック物質の研究」として満足な成果を上げた。 詳細について述べると、次の課題において成果が得られた。 [平成24年度] (a)ハーフドープマンガン酸化物における強誘電性の微視的機構を解明した。Aサイト秩序型ペロブスカイトSmBaMn2O6における構造歪みと強誘電分極を理論予測し、その微視的機構を解明した。 (b)完全スピン偏極強磁性相La2/3Sr1/3MnO3の電子状態とフェルミ面の計算を行い、光電子分光実験の結果と比較し、良い一致をみた。(c)外圧・化学置換によるマルチフェロイック物質HoMnO3の強誘電性の改良を行い、その物性を理論予測した。 [平成25年度] (d)上記課題(a)の継続で、二層構造をもつハーフドープマンガン酸化物PrCa2Mn2O7における強誘電分極の微視的機構を明らかにした。 (e)Ba2CoGe2O7で観測されている電気磁気効果を示す他の物質を探索し、無限層構造をもつCaFeO2が同様のメカニズムを示す事を理論予測し、さらに大きな電気磁気効果を示す物質としてMgFeO2を物質設計した。(f)実験グループ(阪大基礎工 木村剛教授)との共同研究を実施し、高圧下のTbMnO3における強誘電性と磁気安定性の評価を行った。
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