研究課題/領域番号 |
24740242
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
町田 理 東京理科大学, 理学部, 助教 (60570695)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
本研究課題の対称物質である鉄系超伝導体は非超伝導状態の母相で正方晶から単斜晶もしくは斜方晶への構造相転移が存在し,その転移と伴に反強磁性秩序及び軌道秩序が発達することが知られている.この母物質への元素置換,及び圧力印加により母相で観られた構造及び反強磁性相転移温度が減少し,超伝導が発現する.このように鉄系超伝導体では電子系が格子,スピン,軌道の自由度と密接に結びついていることが予想され,この系の電子物性を理解するうえで,これらの自由度がどのように相関しているのかを明らかにする必要がある.当該年度は,構造の対称性の低下に伴い反強磁性秩序や軌道秩序が出現する鉄カルコゲナイド超伝導体の母物質Fe1+dTeにおける電子状態をSTMを用いて直接実空間で観察することでこの系の多自由度の交差相関において何が重要であるかを微視的観点から調べてきた.その結果,この物質の低温単斜晶相(反強磁性相)では, EF近傍の状態密度が実空間で一次元状に変調していることが明らかとなった.この一次元変調の方向が反強磁性秩序のスピン反並行方向に対応していることから一次元状の電子構造はスピン自由度と密接に結びついていることが示唆される.最近の理論研究によると,本物質は,反強磁性相において,各鉄サイトでの局在スピンがBicollinear型の反強磁性秩序を形成し,強いフント結合のため局在スピンによる反強磁性秩序の海の中を遍歴電子が運動する際に,鉄サイト間における二重交換相互作用が支配的になると提案されている.これらの提案によると,スピン並行方向への電子のホッピング確率がより高くなるため,本研究で得られた一次元状の電子状態のストライプ構造の方向が上手く説明できる.このため,本研究結果は,この系の電子物性が3d軌道の軌道間エネルギー差とフント結合の強さとのバランスで特徴付けられる可能性を示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度中は,母物質Fe1+dTeにおける電子状態を詳しく調べること,及び,温度可変高安定STMの設計及びその開発を目的としていた.前項目で記述したように,当該年度の実験及び理論的研究との比較,国際会議における当該分野の研究者との議論等からこの系の電子物性を司るパラメータがなんであるのかといった本研究計画において重要な課題に対し迫ることができた.一方で高安定STMの開発に関しては,現在,設計が終了し,必要部品を実際に加工する段階に入っている.当初の計画から若干の遅れはあるものの,順調に計画は推移しているものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に引き続き,まずは温度可変高安定STMの開発及びその評価に従事する.この開発過程において装置の性能評価を随時行い,高安定測定を目指した改良を随時行う.現在稼働中の低温STMを用いて,さらに不純物近傍の電子状態を局所的に調べることによって,この系特有の電子状態の異方性をより詳しく評価する. 一方で,この鉄系超伝導体によく似た性質を持つIr1-xPtxTe2という超伝導体が近年発見されたため,この物質についてもSTMを用いた局所分光測定を行い,軌道の自由度が関与した電子状態に関して調べていく予定である.できれば,Fe1+dSexTe1-xとIr1-xPtxTe2におけるSTMの結果から軌道秩序と超伝導の関係性を明らかにしたいと考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額222,214円を温度可変高安定STMの各部品の加工費用及び改良時に必要な予備費にあてがう.その他の費用は申請時の計画通りである.
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