研究課題
若手研究(B)
本研究の目的は、スピン軌道相互作用によって引き起こされる超伝導のメカニズムを理論的に明らかにし、いかにして実験的に実現するかを提案することである。そのためにまずスピン軌道相互作用の強い絶縁体であるSr_{2}IrO_{4}とBa_{2}IrO_{4}の電子状態を詳細に調べた。その結果、いずれの物質も強いスピン軌道相互作用下で期待されるJ_{eff}=1/2という特異な量子状態でよく記述されることが分かった。また、Sr_{2}IrO_{4}はIrO_{6}の正八面体構造が回転することでd_{xy}軌道が押し下げられているのに対し、Ba_{2}IrO_{4}にはそれが無く、両者のバンド構造が異なる原因となっていることが分かった。この違いが、両者の反強磁性の強さの違いに反映されていると考えられる。以上の結果を出発点として、上記の二つの物質に電子・ホールをドープした際の電子状態の変化を調べ、超伝導発現の可能性を議論した。その結果、Sr_{2}IrO_{4}では電子を約20%ドープした付近で、擬スピンが秩序化したd_{x2-y2}波超伝導が発現する可能性を示すことが出来た。これは当初の研究計画の予想通りであったが、数値計算を用いて定量的に評価出来たことは、いかにしてこの超伝導を実験的に実現するかの指針ともなり、大きな意義がある。また、Ba_{2}IrO_{4}に関してもほぼ同様の条件下で超伝導が期待されることが分かった。計算手法に関しては、並列化変分モンテカルロ法の開発により、20×20サイト正方格子という大きなサイズでの計算が可能になった。これにより計算の信頼性は大幅に上がったと考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画ではIr系物質における超伝導の実現可能性の議論は平成25年度に行う予定だったが、平成24年度の研究が計画以上に進展したため、同年度中に行うことが出来た。さらにこの結果を論文にまとめて実験グループに提案したところ、実験の指針が決まり、実現に向けて大きく前進したとの報告を受けている。これらの点より、本研究は当初の計画以上に進展していると考えられる。
本研究では強いスピン軌道相互作用下での絶縁体を出発点に、新たな超伝導の可能性を議論してきた。一方、出発点となる絶縁体自体も従来とは異なる機構によるものであり、さらなる研究が進んでいる。中でもこの絶縁体が弱相関的なスレーター絶縁体なのか、あるいは強相関的なモット絶縁体なのかという問題は現在精力的に議論されているが、実験的には意見が分かれており、理論的な裏付けが不可欠となっている。そこで、上記の観点に立ったより詳細な絶縁体状態の解析を研究計画に加える予定である。計算には変分モンテカルロ法を用い、反強磁性状態と常磁性状態の運動エネルギー・相互作用エネルギーを比較することでエネルギー利得機構を明らかにする。このエネルギー利得機構の違いからスレーター絶縁体とモット絶縁体を区別することが出来ると考えている。その後、当初の計画通り、関連する多軌道系物質への理論の拡張を行い、スピン軌道相互作用と多軌道効果が超伝導にもたらす影響を総合的に議論する。そのために計算で用いる波動関数を複素数に拡張し、交代行列とパフィアンの導入により、一重項と三重項が混合した複雑な超伝導状態も取り扱えるようにする予定である。
次年度の研究費は、平成25年度請求額500,000円と平成24年度未使用額2,400,000-2,169,347=230,653円を合わせた730,653円である。平成24年度分に未使用額が生じたのは、予定していた国際会議費用を別の予算から捻出したためである。平成25年度の使用計画の内訳は以下のとおりである。物品費:350,000円、旅費:250,000円、その他(国際会議、国内会議参加費等):130,653円、計730,653円。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Journal of the Korean Physical Society
巻: 62 ページ: 1848~1851
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https://www.rikenresearch.riken.jp/jpn/research/6490.html