研究課題/領域番号 |
24740251
|
研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
渡部 洋 独立行政法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (50571238)
|
キーワード | スピン軌道相互作用 / イリジウム酸化物 / 強相関電子系 / モット絶縁体 / スレーター絶縁体 / 変分モンテカルロ法 / MPI並列 |
研究概要 |
当初の計画では平成25年度にイリジウム酸化物における超伝導の実現可能性の議論を行う予定だったが、平成24年度の研究が計画以上に進展したため、同年度中に行うことが出来た。そのため、平成25年度はイリジウム酸化物に対する理解をさらに深めるための新たな課題を設定した。 具体的には、強いスピン軌道相互作用下で実現する新奇な絶縁体Sr_{2}IrO_{4}が強相関的なモット絶縁体であるか、あるいは弱相関的なスレーター絶縁体であるかを明らかにすることを目標に研究を始めた。この問題については実験・理論ともに意見が分かれており、一致した見解は未だに得られていない。私はエネルギー利得機構によって両者を区別出来ると考え、常磁性相と反強磁性相におけるバンドエネルギー(運動エネルギーとスピン軌道相互作用エネルギー)と相互作用エネルギーの変化を詳細に調べた。その結果、弱相関側では相互作用エネルギーの利得、強相関側ではバンドエネルギーの利得によって反強磁性絶縁体相が安定化することを示した。また、両者がクロスオーバーする領域において、いずれのエネルギー利得も生じる中間的な絶縁体相が存在することを明らかにした。さらにこの領域ではスピン軌道相互作用とフント結合の働きによって強く繰り込まれた常磁性金属相が出現することを示した。以上の結果から、Sr_{2}IrO_{4}がこのクロスオーバー付近に位置する「中相関」物質であることを提案した。この描像は複数の実験結果とよく整合し、Sr_{2}IrO_{4}の特異な性質をよく再現出来たと考えている。 計算手法に関しては、MPI並列を用いた大規模な変分モンテカルロ法を用いることによって金属絶縁体転移付近のフェルミ面の変化を詳細に解析することが可能になり、上記の結果を得ることが出来た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要でも述べた通り、予定よりも研究が進んだため、平成25年度は新たに設定した課題を遂行した。計画ではSr_{2}IrO_{4}がモット絶縁体かスレーター絶縁体かを区別することが目的だったが、新たに両者の性質を併せ持つ中間的な絶縁体が存在することを見出し、Sr_{2}IrO_{4}がその一例であることを提案した。さらに常磁性状態での金属絶縁体転移におけるスピン軌道相互作用とフント結合の役割を明らかにし、多軌道系の金属絶縁体転移に対する理解を深めることが出来た。以上の点より、本研究は当初の計画以上に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では強いスピン軌道相互作用下での絶縁体の性質を詳しく調べ、Sr_{2}IrO_{4}がモット絶縁体とスレーター絶縁体のちょうど中間に位置する特異な絶縁体であることを明らかにし、電子をドープすることで擬スピンの描像に基づいた新たな超伝導が発現する可能性を提案した。Sr_{2}IrO_{4}一つを取っても実に多くの物理を内包していることが分かり、イリジウム酸化物の今後の可能性が期待される。 そこで、イリジウムと同様にスピン軌道相互作用が強い5d電子系を中心に、新奇な超伝導・磁性・電荷密度波を探索する理論研究を行う予定である。特に電荷密度波など、電荷の自由度が重要となる量子現象とその近傍で起こる超伝導の発現機構については一致した見解が得られていないため、その解明を目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
妻の出産予定日が近かったため、参加予定だった国際会議に参加しないことになり、その分の旅費に関わる未使用額が発生した。 国際会議の参加に伴う旅費に使用する。
|