研究課題/領域番号 |
24740255
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
引原 俊哉 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00373358)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 物性基礎論 / 統計力学 / 量子エレクトロニクス |
研究概要 |
サインα乗変形を施した1次元spin-1/2ハイゼンベルグ系、及び、XY系(自由フェルミオン系と等価)における、エンタングルメントの振る舞いについて調べた。厳密対角化法、密度行列繰り込み群法、量子モンテカルロ法を用いた数値計算と、これまでに得られているサイン変形系の知見を用いた解析的議論を適用することで、系の両端に位置する量子スピン間のエンタングルメントの、パラメータα・システムサイズ・温度に対する依存性を定量的に明らかにした。その結果、サインα乗変形系は以下のような性質を持つことがわかった。 ・サインα乗変形系の基底状態においては、α≧2の場合に、系の大きさが無限大になる極限(=両端スピン間の距離が無限大になる極限)においても、両端スピン間に有限のエンタングルメントが残る、すなわち、「長距離エンタングルメント」が実現される。 ・両端間エンタングルメントは温度の上昇とともに減少するが、サインα乗変形系においては、エンタングルメントが消失する温度T*が、システムサイズのべき関数で減衰する。これは、従来知られている長距離エンタングルメントを実現する系においては、T*がシステムサイズの指数関数で減衰することと比較して、サインα乗変形系ではより高温まで両端スピン間エンタングルメントが生き残る可能性があることを示している。 本研究の結果は、エネルギースケール変調を用いた量子多体系のエンタングルメント制御に新しい可能性を拓くものとして大きな意義をもつ結果であるといえる。 なお、以上の結果は、既に論文として平成25年4月に国際学術雑誌において出版されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、当初予定していた、サイン変形系における長距離エンタングルメントの特性解明をほぼ完了することができた。特に、厳密対角化法、密度行列繰り込み群法に加え、当初予定されていなかった量子モンテカルロ法を用いた解析を行うことで、サイン二乗変形系だけでなく、より一般のエネルギースケール変調系(サインα乗変形系)に対して、より大きなシステムサイズについての有限温度計算が可能になった。これにより、エンタングルメントが消失する温度のシステムサイズ依存性の解明など、当初の予定以上の結果を得ることができた。 一方、サイン変形系の低エネルギー状態を記述する物理的描像については、その性質の解明において有力な手がかりとなりうるいくつかの数値的・解析的結果を得ることはできたが、系の低エネルギー有効理論を明確な形で構築するには至っていない。この点は、平成25年度以降の継続課題となる。 以上を総合的に勘案して、本研究課題は現在のところ、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
サインα乗変形系を記述する低エネルギー有効理論を構築する。これまでに得られているサインα乗変形系に関する数値データは、この系の低エネルギー状態が1次元量子臨界状態を記述する理論である共形場理論で表されることを示唆しているが、両者を解析的な理論によって明確な形で結び付けることは未だできていない。今後は、サインα乗変形系をボゾン化法などの場の理論を用いて表した上で、共形場理論との関連を明らかにすることで、系の低エネルギー特性を記述する理論を完成させる。 また、実在の系におけるサインα乗変形の実現可能性という観点から、光格子冷却原子系についての研究を行う。具体的には、光格子ポテンシャルの形状、及び、原子間相互作用強度を空間変調させた系が、どのような格子モデルで記述されるかを明らかにすることで、サインα乗変形を実装する系のセットアップを提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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