研究課題/領域番号 |
24740255
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
引原 俊哉 群馬大学, 理工学研究院, 准教授 (00373358)
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キーワード | 物性基礎論 / 統計力学 / 量子エレクトロニクス |
研究概要 |
光格子中冷却原子系や超伝導量子ビットを並べた量子多体系などを念頭に、実在の系におけるサインα乗変形を施した1次元量子系の実現を可能とするためのセットアップについて調べた。ホッピング強度、粒子間相互作用など全てのパラメータをサインα乗変形した場合だけでなく、粒子間相互作用は空間的に一様で、ホッピング強度をサイン(α/2)乗に変調した系など、より制御が容易なセットアップによるサインα乗変形系の実現可能性について明らかにした。 また、サインα乗変形のような局所ハミルトニアンのエネルギースケールを空間変調させる操作に加えて、多体系中の単一または少数スピン(量子ビット)に対するユニタリー変換、及び、射影測定などの量子情報論的操作を採用することで、系中のスピン間エンタングルメントの空間構造を制御し、所望のエンタングルメント構造をもつ量子多体状態を実現するアルゴリズムについての研究を行った。その結果、少数スピンから成るユニットを並べた量子多体(直積)状態に状態測定、ユニタリー変換を施すことで、1次元格子、及び、ランダムネスの入った2次元格子上に定義された、Affleck-Kennedy-Lieb-Tasaki(AKLT)状態と呼ばれる状態を実現できることを示した。このAKLT状態は大規模量子計算の実現可能性の研究において注目されているものであり、本研究の結果は、そのような量子多体状態を光格子中冷却原子系や超伝導量子ビット系などの実在系において実現する方法を提案するものとして、大きな意義をもつものと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究における進展としては、エネルギースケールの空間変調だけでなく、状態測定や局所ユニタリー変換などの量子情報論的操作を用いることで、量子多体系中の量子自由度間のエンタングルメントの空間構造を制御し、所望の構造をもった量子多体状態を実現する方法についての可能性を示した点が挙げられる。この結果は、「現実の系における高効率量子情報伝達などの量子情報操作の実現」という本研究課題の目標を達成する上で、大きな前進と言える。 対して、もう一つの目標である、サインα乗変形系の低エネルギー状態有効理論の構築については、共形場理論による記述の可能性を示唆する数値計算結果などの傍証はあるものの、解析的手法による両者の関連付けには未だ到達できていない。 以上を勘案して、本研究課題は、現在までのところ、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
エネルギースケールの空間変調に加えて、局所ユニタリー変換、状態測定などの量子情報論的操作を援用することによる、量子多体状態の制御、生成に関する研究を推進する。具体的には、エンタングルメント蒸留などの操作の適用による、サインα乗変形系の両端量子ビット間のエンタングルメントの増強などについて調べる。解析に際しては、光格子中冷却原子系や超伝導量子ビット系などを念頭に、実現可能な操作のみに立脚したアルゴリズムの構築を探求することで、実在の系での高効率量子情報伝達の実現という、本研究課題の目標達成を目指した研究を行う。 また、ボゾン化法により導出される連続体モデルに対するエネルギースケール空間変調を考えることで、サインα乗変形系の共形場理論による記述の可能性についての研究も行う。
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