空間的に不均一な媒質中に生成された励起子は、エネルギーの緩和を伴いながら拡散する。この現象は有機太陽電池、発光素子においてその効率を作用する重要な要因であるが、本質的に非平衡であるためその取扱いについてはまだ確立されていない。本研究では、不均一広がりをもつ半導体ナノ粒子が配列された系における励起子ホッピング・輸送現象に着目し、多色のレーザーを光源に用いた時間分解顕微鏡を用いた測定から、そのダイナミクスを系統的に明らかにすることを目的とした。本年度の成果として主に以下を得た。 変調周波数の異なる2色の半導体レーザーを用いた顕微測定システムの検出感度と空間分解能を向上した。その結果、ショット雑音限界感度、回折限界値に対して2倍の超解像(約100nm)でポンプ-プローブ信号が測定できるようになった。量子ドットの凝集体の不均一構造のサイズは数100nmで本装置で十分に観察可能である。また光源の変調周波数を変え試料の周波数応答を測定することで励起状態寿命などの時間分解情報が得られる。その分解能は約数百ピコ秒であり、約数百ピコ秒からナノ秒の励起子拡散ダイナミクを評価するために十分な性能を有する。 バルクの不均一量子ドット格子系を対象とした時間分解蛍光スペクトルの温度、励起波長依存性から、低温ではエネルギーの小さい粒子に励起子がトラップされやすく、室温程度では繰り返しホッピングが起こるが欠陥等に起因する粒子に辿りついた場合にはクエンチされる等の描像を昨年度までに明らかにした。今年度はさらに現象を定量的に説明するための非平衡統計力学的な立場から理論構築を行い、平均ホッピング距離や励起子のクエンチの割合について評価した。
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