当初の研究予定を前倒しして、今後の領域横断的研究基盤の形成を迎えるに至った. ①非平衡統計力学における変分原理により、自然の摂理に基づいた最適な数値計算手法を提案することに成功した.本手法は、いわゆる詳細釣り合いの破れを導入した近年盛んに研究されている方向性を系統的に整理することにも相当しており、純粋な理学的興味も含まれる. ②機械学習への統計力学の知見の利用についても大きな進展があった. まずボルツマン機械学習について、スパース性に基づいた最適化問題を解く手法について、 従来知られたL1ノルムによる正則化を用いた解法の性能評価と、貪欲法に基づく解法の性能評価を行い、解がスパースであれば貪欲法が優れること、L1ノルム正則化による手法は比較的広範囲のパラメータ領域で優れた性能を持つことが分かった.それらの手法に基づいて、社会的に注目されるカンニングの検出技術を提案して、実際に試したところ高精度に検出することが可能となり、新聞やTVなどマスメディアの注目を浴びる希有な成果となった. ③近年機械学習の分野で中心的に研究されている深層学習について、乱れた多体系を扱う統計力学的手法のひとつレプリカ法による性能評価を行った.事前学習と最終的なパラメータ調整の効果について明らかにすることができた.深層学習について問題を適切に切り分けて、その非自明な性能の一端が少しずつ明らかになっている現状である.
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