研究課題
若手研究(B)
本申請は、国際熱核融合実験炉(ITER)のような核融合プラズマ中で起こる緩やかな拡散現象によって、プラズマを形成する荷電粒子が周囲の壁と相互作用し、壁材の劣化やそこから発生する不純物の影響を探索する素過程の研究である。具体的には、ITER計画において使用を検討されているタングステン、ベリリウム、炭素等の金属表面とプラズマ中で最も軽く輸送されやすい低エネルギー電子との相互作用によるエネルギー授受の定量測定について、これまで申請者らが行ってきた電子分光技術を応用することで詳細な知見を得るという内容である。特に近年、複雑な気相分子による電子の散乱現象は、その分子を構成する周囲の原子が重要な役割を担っていることが申請者らにより明らかにされた。これは、標的が金属表面の場合の電子散乱現象も同様に、金属を構成する原子1個が重要な役割を担っていることが予想されているが、実際に測定を行った例は過去に報告されていない。そこで本研究では、金属表面による散乱電子の角度分布を精密に測定し、表面を構成する原子1個による散乱電子の理論計算と直接比較することで、表面における構成原子の役割と、プラズマ-壁の相互作用を理解し、今後の壁材としての材料選定やプラズマ診断に知見を得る基礎研究を行うことが目的である。初年度である2012年度は、これまで気相原子分子用に開発されてきた低エネルギー電子分光装置を固体表面用に改良するための装置の設計開発、これまでより高い真空度で測定を行うための備品の購入を行った。特に今年度は、標的である金属表面を回転させる機構や極高真空を得るためのポンプの購入、設置を行い、ほぼ実験準備が整ったところまで進めることができ、申請時の計画通り進めることができた。2013年度は早速測定を開始し、装置の開発状況およびテスト実験の結果を報告する予定である。
2: おおむね順調に進展している
実験装置の設計・開発は、上智大学内テクノセンターとの共同により行われた。設計や実際の装置加工をテクノセンタースタッフと相談しながら進め、約3か月で完成させることができた。さらに、標的部分の回転機構に使用する装置の購入検討や、極高真空を作るための真空ポンプの購入に約3か月を要したが、既存の電子分光装置へのインストール作業やポンプの設置、真空引きの準備でおおよそ計画通りに進めることができた。また金属表面からの電子散乱は、その金属を構成する原子1個からの散乱に支配されることが予想されているが、金属原子1個の電子散乱は実験的に行うことが困難であるため、理論計算に頼る必要がある。そこで同時並行で、原子の散乱計算を非常に精力的に行っている共同研究者であるスペインの理論グループに協力を依頼し、詳細な議論を進めながら、すでに入射電子エネルギー1eVから1keVまでの理論計算が行われている。以上のことから、実験装置は開発がすでに終了し、考察に使用する理論計算もすでに行われていることから、2013年度は実験を開始し計画通り進めることができると予想される。
すでに述べたように初年度で実験装置はほぼ完成していることから、次年度は装置の調整や実際の測定を開始する。これまでの申請者らの電子分光装置に対する経験から、調整にはそれほど多くの時間をかけることはなく、目的である金属表面の電子散乱実験を開始できるものと考える。測定されたデータは、これまで過去に行われた例がないため、多方面から再現性や信頼性の確認を行い、速やかに研究成果を公表できることが期待される。万が一、装置が順調に動作しない場合には、一度気相電子分光実験のセットアップに戻し、すでに散乱断面積が既知のHe原子等を用いた予備実験および動作確認を行う。
すでに述べたように、実験装置の開発に必要な大きな研究費は初年度のみの申請であり、計画通り購入・設置が終了したことから、次年度は装置の維持に必要な真空保守部品の購入や、適宜必要な金属材料や電源等を購入することで、研究を進めることができると予想される。途中研究成果の進捗状況により学会発表を行うことができる場合には、申請書に記したように成果発表旅費として研究費の一部を旅費に使用する予定である。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
The Journal of Chemical Physics
巻: 138 ページ: 054302-1-12
10.1063/1.4788666