研究課題
若手研究(B)
励起子ポラリトン凝縮を閾値直上からモット密度にまで至る様々な励起密度における振る舞いを実験研究し分類することが出来たため、その成果を論文にした(arxiv:1211.1753)。具体的には、励起子ポラリトンを生じる励起子-共振器光子間強結合の有無による電子-正孔-共振器光系の相分類を行った。励起子生成にはガリウムヒ素量子井戸を用いて行ったが、ガリウムヒ素のような励起子束縛エネルギーが比較的小さい物質では、高温で励起子解離がおきて強結合が破れる。そのため、ガリウムヒ素量子井戸を埋め込んだマイクロ共振器サンプルの温度を変化させる事で、低温の励起子ポラリトン凝縮から高温の(通常の半導体)レーザー動作へとの変化が見られる。我々の研究では、従来考えられていたように低温であってもより高励起領域までレーザーへの転移が起きず、特徴的な振る舞いを示す事が、フォトルミネッセンス強度、エネルギー、線幅、また2次相関関数データからわかった。また低温高励起領域では、特徴的なPLスペクトルが高エネルギーにあらわれる実験結果から、非平衡でかつ電子-正孔対が存在する場合、半導体中の多体効果により、高エネルギー側にのみ付加的なサイドバンドが現れる事が本研究により明らかになった。その結果として対象としている系は、熱平衡にあるボース・アインシュタイン凝縮体とは異なる新しい相であり、非平衡性が強いレーザーの一種と見なせることがわかった。現在論文準備中である。
1: 当初の計画以上に進展している
平成24年度研究実施計画において、高励起状態のポラリトンBECが生成される条件を求め、強結合にある事を示すために(レーザーとポラリトンBECとの違いを示す)、次の項目が必要になると挙げている。1.分散関係の測定による有効質量の見積もり。2.閾値付近でのエネルギーシフト測定による、レーザー動作とポラリトンBECの区別。3.高次コヒーレンス関数測定によるコヒーレンスの有無。これらの項目を観測する事で、系の結合状態変化を精密にトレースする事ができるが、これらはすでにクリアーされ既に論文として投稿している。また、Near field分光によって、ポラリトンdoublet→Mollow tripletの詳細な励起密度依存性のPL観測を行ったが、計画でも述べたようにそれ自体が極めて新しい実験結果であり、詳しい物理解明が始まったばかりであるので、理論面からの研究も非常に重要になる。そのために連携研究者とともに共同で実験理論両面からの研究を行う事とした。これに関しては、大阪大学の小川哲夫研究室および分子科学研究所の鹿野豊氏ら理論家との共同研究をスタートさせている。更に、平成25年度計画としていたストリークカメラによる時間分解分光を既にスタートさせ、データ取得が行われているなど光学測定が完全に走り出していることから、当初計画よりも早い進展であると自己評価する。
実験的に観測されたデータのみによってでは系の物理が完全には理解できていない現状であるため、理論家との共同研究をスタートさせている。一つの大きなマイクロ共振器励起子ポラリトン系の特徴は、マイクロ共振器のピコ秒オーダーという短寿命性による系の非平衡性である。これが長寿命をもつ原子BEC系との大きな差であり、理論的理解の困難さにつながっている。最近大阪大学の小川哲夫研究室では共振器寿命をパラメータとして取り込んだ理論の構築に成功しているので、彼らとの活発な議論を重ね、高励起でのポラリトン凝縮の理解を進展させる。同時に、実験的には高速時間分解分光を進め、特徴的なスペクトルの時間分解測定および高次相関関数まで時間分解する事で、時間平均効果を排除し、高励起領域の明確で理解の助けとなるデータ取得を進める。その結果、ポラリトン凝縮が高励起にまで至ると半導体レーザー動作に必ず移行するというこれまでの定説を覆すべく研究を進める所存である。
理論家との議論のための旅費が主たる使用となる。これは研究代表者の旅費だけではなく、理論家を招くための費用も含まれる。また既に論文投稿を始めているように外部発表も進めていくので、出張による学会発表への使用も大幅に増える予定。さらに投稿論文の英語校正費用としても使用する。
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