研究課題/領域番号 |
24740284
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古川 亮 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (20508139)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ガラス / 過冷却液体 / レオロジー / ソフトマター |
研究概要 |
申請者は、ソフトマター物理の視点からガラス化の起源に迫ることを目的として、特に流体輸送の異常とその時空階層性に着目した研究を遂行してきた。これまでの研究において、3次元分子動力学シミュレーションによる流体輸送の詳細かつ系統的な解析により、(i)メソスケールに展開する構造緩和(粒子の協同的な配置換え)と流体輸送(粘性、密度拡散)が直接的な関連を持つことを示した。(ii)この構造緩和のメソスコピックな性質はストレス自体の空間相関(静的特性)ではなく、ストレス緩和イベントの空間相関(動的特性)に由来することを明らかにしてきた。 平成24年度は、さらに研究を進めることにより、異常流体輸送および構造緩和が単一の動的相関長(輸送の相関長)で特徴づけられることを数値的に見出した。この結果は(i)(特に脆いガラス形成物質の)過冷却液体ではこれまで認識されているよりもより一般的かつ重要な動的スケーリング則が成立すること(ii)メソスケールに展開する動的な協同性が流体輸送に本質的な寄与をもたらすことを強く示唆する。 多くの過冷却液体では、ガラス転移点に近づくに従い、Stokes-Einstein則は大きく破たんすることが知られている。このStokes-Einstein則の破れは、動的不均一性が直接的に関与する効果として引き合いに出されることが多いが、通常、語られる動的不均一性との関連は概念の域を出るものではない。また、モード結合理論をはじめとする既存の理論による明確な説明はなされていなかった。申請者はこの動的スケーリングの観点から、このStokes-Einstein則の破れが動的相関構造の協同拡散という見方により自然に理解できることを提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既存のアプローチにとらわれない研究を展開し、種々の独創的な成果を得ることができたと考えている:従来、多くの研究者に広く用いられてきた一般的なモデルガラス形成物質を全く新しい観点(流体輸送の時空階層性)から系統的に解析することにより、新奇な結果を得ることができた。さらに、動的スケーリングの概念を適用することで、過冷却液体のダイナミクスに本質的な理解を得た。多少、スピード感を持った取り組みを心掛けたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、これまでに得た数値シミュレーションの成果をもとに、理論的な理解の深化を試みている。具体的には動的スケーリングの立場から過冷却液体のダイナミクスの現象論の構築を進めている。 スローダイナミクスを示すモデルガラス形成物質は種々あり、従来、数値的にも盛んに研究が進められてきたのは脆いガラス呼ばれる物質系である。しかし、これとは異なる普遍性クラスに属すると考えられているガラス(強いガラス)が存在するが、これらの系のダイナミクスの様態の理解についても現在のアプローチの延長線上に求める。 異なる側面を持つ種々のガラス形成物質のダイナミクスを総合的に理解することにより、ガラス化の起源に迫る。
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次年度の研究費の使用計画 |
解析のさらなるスピードアップや、シミュレーションの効率化を図るために、新たなワークステーションを導入する。
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