研究課題/領域番号 |
24740285
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
芝 隼人 東京大学, 物性研究所, 助教 (20549563)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 界面活性剤 / 粗視化分子動力学 / オニオン相 / 超並列計算 / 国際情報交換(ドイツ) |
研究概要 |
メッシュレス脂質膜模型を陽溶媒に拡張したモデル系の改良を行い、枯渇相互作用を伴わないモデルへとまずモデルを発展させることに成功した。このモデルを用いて膜密度、剪断率の関数として相図を作成し実験との対応を研究した。充填オニオン型構造の前駆構造と考えられるsub-μmスケールの不安定構造がシミュレーションで新たに見いだされ、定性的にX線(中性子)散乱実験や剪断下のNMR測定と整合している。高い膜密度領域では、剪断率が低いときと高いときにラメラ構造が現れるが、中間領域でのみ秩序パラメターの低下を伴う顕著な構造不安定化が見られるリエントラントな転移が著しい特徴である。これはオニオン相の電顕観察による実験相図の結果と定性的に整合する。以上の結果はシミュレーションでは完全に初めて見られた現象である。また、この構造不安定化について初期条件の効果を調べ、純粋なラメラ状態からも剪断流による不安定化が可能であることを示した。 また本模型を開発と同時に、高効率の超並列計算スキームを確率した。Lees-Edwards境界条件により駆動された系を空間分割型のプロセス並列にするために、系内の全ての探索セル・プロセスセルが剪断と共にアフィン変形し、歪み0.5の時点で全体通信を行って系の形状を転換させる形の実装と行うことで高効率計算を実現した。 以上の結果は J. Chem. Phys. 誌にフルペーパーとして投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本テーマの研究にあたって一番重要なポイントである膜密度と剪断率に対する依存性が相図として明らかにされたので、目標に向かっての足がかりが完成している。また、当初のモデルに存在した膜間の枯渇相互作用が効果を持つ懸念がなくなっており、当初申請において用いるとしたシミュレーションの枠組み構築やプログラム開発などは、全く当初の想定通りに進んでいる。 一方で広い膜密度範囲で見ていったシミュレーションの結果から、ラメラ相の剪断勾配方向に生じる座屈不安定性を生じる条件を見いだすことが不可欠であることが新たに分かってきた。現状ではレオロジーの性質が顕著な特徴を伴っていないことが実験と異なっており、ガウス曲率や膜粘性など申請時点では想定されなかったパラメターをコントロール可能にする必要がある。研究計画として挙げたラメラの構造の研究についても、既存の文献の知見とあわせてこの観点からの再検討を要することが明らかになった。この点は早い時期にカバーできると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究については、当初計画通り、オニオン構造の形成機構の解明をめざして初期条件依存性とトポロジー変化のダイナミックパスの研究が可能な状況であるのでこれを行う。また、モデルの改良(膜粘性と溶媒粘性のマッチングなど)と合わせてオニオン相に肉薄するための更なる計算の大規模化も不可欠な状況であるのでこれを推し進める。また、関連論文が台湾のC.-Y. David Lu氏により発表されており(Phys. Rev. Lett. 109, 128304 (2012) )膜間圧縮率に対するマルチラメラ状態の依存性などを調べることが急務な状況である。 また、9月の時期にイタリア・ローマで開催予定の"International Soft Matter Conference 2013"での発表を目指して準備すると共に、ヨーロッパ各国の実験研究者への訪問などを行い、論文発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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