脂質膜の巨視的性質を再現するように構築した陽溶媒メッシュレス脂質膜模型を用いて、μmスケールに及ぶ多層ラメラ状態に剪断流をかける大規模並列計算を実現した。これにより、同心状に長く延びた長ネギ状の形状に系が時間発展することが分かった。これは以前の散乱実験でしばしば存在が示唆されていたが構造が明確が分かっていなかった、リーク構造という、タマネギ状の構造の発生の前駆構造に対応するものと考えられる。本研究においては、最終目標であるところの脂質膜のオニオン状態には計算が到達していなかった。しかし、膜の組成比と剪断速度を2軸とする相図を描いたとき、実験でラメラ状態が見られる領域と、我々のシミュレーションでリーク構造が見られる領域は定性的に一致している。これらの相図の構造は、剪断率の低い領域と高い領域に現れる平板マルチラメラ状態の間に不安定化状態が現れる構造になっている。従って、本シミュレーションで、実験でよく把握されていなかった中間体の再現までは成功したと考えてよい。 我々は引続き、スクリュー欠陥の配置を変えながらさらなる計算を進めており、特定の配置の欠陥構造によって誘引されるラメラ構造の大変形が明らかになってきている。欠陥ダイナミクスを着眼点として、現在追加の論文の執筆を準備計画中である。3月には本テーマを主題としたワークショップを主催し、今後の課題について実験、シミュレーション、理論の視点から整理を行った。
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