研究課題/領域番号 |
24740286
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
辰巳 創一 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (50533684)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | ガラス転移 / 単純系 / 細孔凝縮法 / 断熱型熱量計 |
研究概要 |
本研究では過冷却液体の普遍的な性質を調べるため,単純な物質を不凍化しその熱的な性質を調べている.単純な物質は普通に冷却すると必ず結晶化してしまうため,本研究では直径数nm程度の細孔中に液体を凝縮させ,その閉じ込め効果によって結晶化を阻害する細孔凝縮法によって不凍化を実現した.そのようにして不凍化させた物質は主に断熱型熱量計による熱容量測定と自発的エンタルピー緩和測定により,相転移,及びガラス転移について調べた.主として使用した試料は四塩化炭素とシクロヘキサンである. 四塩化炭素については,幾つかの細孔径に封入した試料についての結果を通じて,熱容量の飛びを伴うガラス転移が145K近辺に存在することがわかった.145K近辺のガラス転移はDSCによる混合系の熱容量測定によって示唆されていた四塩化炭素のガラス転移温度と近く,バルクの四塩化炭素のガラス転移温度が145K近辺であることを示している.145Kというガラス転移温度は四塩化炭素の融点が250K程度であり,その両者の比が145/250~0.58で,従来ガラス転移温度と融点の比率の経験則として知られている2/3に比べだいぶ小さいことが単純な物質である効果としてあらわれて来ていると考えられる. 一方シクロヘキサンについては,四塩化炭素同様,融点(280K)の2/3よりもだいぶ小さい90Kと,130K付近に熱容量の飛びを伴うガラス転移が観察され単純物質でガラス転移温度が小さくなる傾向が現れているが,それ以上に特筆すべきこととして,小さな細孔径に封入することによって,バルクのシクロヘキサンにおいては存在しなかった一次転移が154Kに現れることがわかった.転移エントロピーは極めて小さいものの,転移温度は細孔径にはほとんどよらないことがわかっている.これは過冷却液体状態から違う液体状態への転移現象ではないかと考えられ極めて興味深い.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主眼は単純な物質を不凍化させ,その性質を探ることを通じてガラス転移の普遍的な性質を探ることにある.その目的に即して既に二つの物質についてその性質を調べ,ガラス転移温度が単純な物質を用いることでぐっと下がる,という結果を得た.特にシクロヘキサンについては想定していなかったことではあるが,細孔に封入することによってバルクのシクロヘキサンではあり得ない相転移現象を観察した.この相転移現象は液体から液体への転移現象ではないかと考えられ,分子間になんら特別な相互作用を持たない分子として初めて見つかった現象である.これは単純な物質を用いたことにより初めてわかったことであり,過冷却液体の研究に重要知見を与える結果である. 一方,そのような新奇な現象の検証に多くの時間を費やすことになったため,重要な目的の一つであった窒素やアルゴン,一酸化炭素のような物質の実験を遂行することは出来なかった.従って,前段の結果とあわせ,達成度としては,おおむね順調に進展,に留まると考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
最初に,前年度に発見した四塩化炭素とシクロヘキサンの結果について幾つか興味深い知見があるのでそれについて調べる. まず,四塩化炭素については結果項で述べた145Kのガラス転移の他に,60K近辺にガラス転移が存在している可能性がある.この60Kという温度は蒸着DTAによって実験的に示唆されていたガラス転移温度や,アモルファス状態の四塩化炭素の結晶化温度と一致しており,アモルファス状態下で単一の四塩化炭素が動き出せる温度と関連していると考えられ,結晶化のメカニズムとの関連を議論したい.一方,シクロヘキサンについては粉末X線散乱による構造解析を通じて154Kの相転移がどのような構造変化に由来するものであるのかを検証し,この転移現象について結論を出したい.あわせてアダマンタンのような球状の分子についても似たような転移現象が存在しないかを調べる. 一方,以上が終わり次第速やかに当初の目的であった窒素やアルゴン,一酸化炭素のような極めて単純な物質のガラス転移について調べる.必要な装置の改造・作成については前年度にその半分程度がすでに終了しているので,実験開始までそれほどの時間を要せず出来る見込みである.
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定になかったこととして,粉末X線散乱実験のための装置改造が必要となる.本実験では試料の特性上,非常に長時間のScanを要求する.実験には研究科共通の粉末X線散乱実験装置を用いるが,その装置は長時間,低温で測定する,というような目的に最適化されておらず,そのために装置のアタッチメントに手を加える予定であり,その費用を研究費から支出する.場合によっては大型放射光施設に出向いての実験も視野に入れており,そのための旅費・滞在費も必要となる. その他の実験装置としては試料導入時にチューブの温度を制御するための温度コントローラや,試料,真空ポンプの購入を予定している. 他には学会他で発表するための旅費・滞在費を予定している.
|