研究課題/領域番号 |
24740292
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
柳澤 実穂 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50555802)
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キーワード | ソフトマター / 多細胞モデル / ベシクル / 生体高分子 / 相分離 |
研究概要 |
複数の細胞からなる生物は、機能に適した細胞の形とその内部構造を生物全体で制御している。本研究では、生物の形と構造の制御原理において重要となる物理的な細胞間相互作用を、モデル多細胞を用いた実験的研究から解明することを目的とした。 細胞膜に多く含まれるリン脂質の単分子膜で覆われた細胞サイズ液滴(エマルション)やリン脂質二分子膜小胞(ベシクル)の内部に生体高分子溶液を封入することで、階層構造を備えた多細胞モデルを構築した。その後、リン脂質膜の膜内相分離や高分子混合溶液の相分離を引き起こし、そこで現れる時空間パターンについて解析を行った。生体高分子溶液を内包した単一細胞モデルとしてのベシクルは、高浸透圧下で高分子溶液が濃縮されるのに伴って膜変形を示すが、そのタイプは内部の粘性率に依存することが分かった。この結果は、学術論文としてまとめると共に、物理学会でシンポジウム講演することにより社会へ広く発信した。また、この単一細胞モデルを集積した多細胞モデルでは、細胞間の吸着面に対して水平・垂直配向した相分離パターンが形成されることが分かってきた。脂質と高分子間に引力相互作用が生じる場合では、その強さに応じて内部構造が変化し、また細胞間吸着力自体も増加する傾向がみられた。平成26年度は、脂質と高分子間の相互作用、細胞間接着力をパラメーターに、多細胞モデル内での相分離パターン形成について明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
生体高分子溶液を内包した多細胞モデルでは、細胞膜と高分子間の相互作用に強く依存した相分離パターンが現れることが分かってきた。高分子が脂質と引力相互作用を示す場合、静電引力が支配する膜界面から数ナノメートルの短距離領域だけでなく、細胞サイズ空間(数十マイクロメートル)に含まれるほぼ全ての高分子が脂質膜近傍へ局在する様子が観察された。また、この局在に伴って細胞間接着力が増加する様子もみられた。一方、このような引力相互作用が存在しない場合、細胞間の吸着面に対して水平・垂直配向した相分離パターンが形成される。しかし、こうした現象を説明する物理的メカニズムは未だ解明できていない。平成26年度内に、こうした多細胞モデルにおける相分離パターン形成の機構について明らかにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
遠心機を用いてほぼ同サイズのモデル細胞を多数形成し、それをマイクロ・マニュピュレーターによって規則的に配置・接着させた、多細胞モデルを構築することが可能となった。そこで、細胞数を固定した上でモデル細胞の配置を変えながら細胞間接着力を制御したい。また、高分子混合溶液や脂質の組成を変化させることで、細胞膜と高分子間の相互作用の制御を目指したい。ここで現れる相分離パターンを定量的に解析することで、多細胞モデルにおける内部構造を形の制御機構を、平成26年度内に明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、生体高分子溶液を内包した多細胞モデルを構築し、細胞の形態と膜内相分離パターンの相関関係を明らかにする予定であった。しかし、モデル細胞内に封入した高濃度の高分子混合溶液は、細胞膜との相互作用によって相分離を誘発することが新たに分かった。そのため、計画を変更してそれぞれを詳細に解析する必要があり、未使用分が生じた。 平成26年度へ繰越す経費は、蛍光試料や生体高分子等のサンプル購入費(約35万)と、研究成果を物理学会(中部大学)や生物物理学会(北海道大学)にて報告するための旅費(10万)として使用する予定である。
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