研究課題/領域番号 |
24740293
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
須藤 誠一 東京都市大学, 共通教育部, 准教授 (10453945)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ガラス転移 |
研究概要 |
本課題では、液晶構造中に拘束された過冷却水の分子ダイナミクスを明らかにすることで、水のガラス転移機構の解明を目的とした。該当年度では、研究計画に挙げたとおり、含水量が異なる4種類のヒドロキシプロピルセルロース水溶液の広帯域誘電分光測定を室温から90Kの温度域で実施した。高温度域では、溶液中の自由水とヒドロキシプロピルセルロースの誘電緩和過程が観測された。一方、200K以下の温度では、水の運動に関係した3種類の緩和過程が観測された。これらの緩和過程の示す誘電緩和時間は、含水量に強く依存しない特徴を示しており、従来測定を行ってきたアルコール水溶液、高分子水溶液とは異なる特徴である。 ヒドロキシプロピルセルロース水溶液で観測された緩和過程のメカニズム解明を行うために、当初計画には挙げていなかったアセトン水溶液の誘電緩和過程を実施している。アセトン水溶液に限らず、水の空間構造を著しく制限する物質群(含水させた多孔質材料、ゲル等)では、低温度域で水のダイナミクスに関係した誘電緩和過程が報告されており、これらの緩和過程とヒドロキシプロピルセルロース水溶液で観測された緩和過程を比較することで、そのメカニズム解明を行う狙いがある。実験を実施したアセトン水溶液でも、低温度域で水に関係した3種類の緩和過程が観測された。現在、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液、アセトン水溶液と、報告されている含水させた多孔質材料の緩和時間の比較検討を行っている。 。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヒドロキシプロピルセルロース水溶液の試料選定、誘電分光測定は当初予定の通り、含水量が異なるヒドロキシプロピルセルロース水溶液の広帯域誘電分光測定を室温から90Kの温度域で実施し、達成している。また比較検討のために、含水量の異なるアセトン水溶液の広帯域誘電分光測定を実施しており、一部の濃度の試料では測定が達成できている。(データ解析の結果に応じて、必要であれば未測定の含水量のヒドロキシプロピルセルロース水溶液の測定を実施する状態である。)また緩和のメカニズム解明のための比較検討を行っている段階で、当初予定よりも進んだ状態と言える。
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今後の研究の推進方策 |
ヒドロキシプロピルセルロース水溶液で観測された緩和過程のメカニズム解明を行うために、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液、アセトン水溶液と、報告されている含水させた多孔質材料の緩和時間の比較検討を行っている。 今後の研究の推進方策:ヒドロキシプロピルセルロース水溶液で観測された誘電緩和強度、緩和時間分布の比較を行うことで、メカニズム解明を実施する。必要応じて、物質群が近い水溶液の誘電測定と、レーザ振動測定を行い、時間・空間構造の比較検討材料とする。また観測された緩和過程のメカニズム解明には、熱測定による転移温度、エンタルピー測定の結果の検討が有効である。そこで、DSC測定による評価の実施を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に残額70,864円が生じた状況:計画していた自己光混合振動計測のセットアップが、予定よりも安価に達成できたため残額が生じた。具体的には、光学部材の反射防止膜処理の一括発注を行った事による、価格低下に関係した残額である。 次年度の使用計画:上記の推進方策に従って、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液のDSC測定は、試料の取り扱いの難しさから、学内の機器分析部門では対応ができないという回答を得ている。そこで、外部の機器分析企業に依頼して、DSC測定の実施を検討する。また誘電緩和パラメータの比較検討結果を受け、他の水系物質を調達し、測定を行うことで、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液の緩和機構の解明と、ガラス転移機構の解明を達成する。 またヒドロキシプロピルセルロース水溶液中の液体構造の空間情報得るために、自己光混合レーザ振動計測法による空間構造解明のセットアップの高光感度化を検討する。具体的には、透過率の高いレンズの購入が挙げられる。この購入には、本年度の残額と、次年度の研究費を充てる予定である。
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